2




 一日目は土産を頼まれた保以外は買い物に興味を示さずウインドウショッピングに時間を費やし、夕方から浜辺で開かれているフラのショーを観覧。宿に戻って遅めの夕食を堪能して後は、時差ぼけもあって早々に眠りについた。

 そして翌日。

 一行は二手に分かれていた。一方は文也と優、裕一の三人でサーフィンへ。一方はこの時期が丁度見ごろだというホエールウォッチングだ。

 サーフィン組の三人は前日に予約しておいたサーフショップを訪ねた。初心者三人で道具も一切ないフルレンタルのため、一時間のコーチング付きパックを頼んであったのだ。店もコーチも日本語のできない小さな現地ショップだったが、元々運動神経はそれなりの三人には身振り手振りと文也の通訳だけで十分だった。

 午前中いっぱいでそれなりに波の上でサーフボードに立てるようになった三人は、レンタル時間の終了を告げに来たショップのスタッフに呼び戻されて浜に上がった。なかなか筋が良いと誉められて、店を後にしたのが丁度昼食時だった。

 クジラ見学クルーズ組との待ち合わせは、次の予定に入れてあるツアーの集合場所に集合時間の十三時を約束していて、後三十分ある。レストランに入るには少し時間が足りないが、ファストフードなら十分だろう、という理由で入ったのはABCマートだった。サンドイッチや惣菜パンにペットボトル飲料などを買い求め、ビーチに設置されたベンチの一つを三人で占拠し、昼食となる。

 朝から健康的に活動してよほど空腹だったのか、あっという間にサンドイッチを平らげてペットボトルの炭酸飲料を半分ほど飲み干し、優は裕一に視線を向けた。

「なぁ、内藤」

 声をかけられた裕一の方は、まだパンの半分も食べていなくて、口の中をモゴモゴさせながら問い返した。

「ん?」

「日本に戻ったら、仙台に帰るのか?」

 それは、結局文也を除いた進学組の中で一人だけ浪人決定した裕一に対する、今後の予定のことだった。裕一の地元は仙台なので、親元に帰るのは当然だ。だが、優はあえてその話題を持ち出した。

 そもそも、本人たちは隠しているようだが、どうやら保と微妙な関係にあるらしいことは薄々気づいていた。このグループでは文也と優、正史と太郎がそれぞれカップルなので、同性愛カップルを内緒にしておくメリットはまったくない。むしろオープンにした方が良さそうなものだ。それをわざわざ隠すのだから、二人の間に何らかの事情があるのだろうとは思っていたわけだ。

 尋ねられた裕一は、口の中に入れたモノをごくっと飲み込んで、困ったように苦笑を返してきた。

「京都に行く予定。志望校の教授の研究室でバイト募集が公募であってね。資料整理のバイトなんだけど。採用してもらえたからさ」

「伊藤を追いかけて、じゃないのか?」

「俺の気持ち的には半分はそうかも。けど、多分たもっちゃんには迷惑だろうなぁ」

 その台詞は、自分の気持ちを認めると共に、相手と気持ちがすれ違っていることを認識していることまで暗に示している。遠い目をする裕一に、文也も優の向こうから声をかけた。

「諦めるの?」

「・・・・・・さとっちって、直球だよね、こういう時」

「だって、猶予ないもん。もう学校は卒業しちゃったんだよ、僕たち。離れても友達ではあるけど、それでも日々疎遠になっていくんだ。離れちゃったら離れていくばかりだよ。捕まえるのなら今しかないのに。諦めちゃうの?」

 諦めざるをえない事情が、きっとあるのだろう。だから裕一はとっくに諦めてしまっているのだと推察できる。
 けれど、その事情は覆らない事情なのか。事情の何たるかは知らない文也と優でも、だったら強引に覆せ、と乱暴なことを考えるのだ。そうして強引に覆してきた二人だからこそ、諦めるなんて愚の骨頂だと思う。

「諦めたらそれでおしまいだ。何の問題があるんだか知らないが、そんなもんは覆しちまえよ。縛られるな。怖気づくな。周りを良く見回してみろ。道がないなら作る余地を探せば良い。固定観念に囚われてると本質を見逃すぞ」

「ちょっと強引にでも、たもっちゃんの手を引っ張ってあげたら良いんだよ。一人で見えない道なら、二人で前を照らしてみたら良い。一人で越えられない壁なら二人で協力し合えば良い。僕たちもそうやって乗り越えてきた。きっとみんな、協力し合って困難を乗り越えて生きてるんだ。逃げたって立ち止まったって自分の時間は進められるけど、それはすごくもったいないよ」

 アメリカから戻ってきて優と出会うまでの一年と数ヶ月、逃げて立ち止まって無為な時間を過ごしていた文也だからこその台詞だった。
 少し強引に手を引いて愛していると伝え続けて支えてくれたのが、優だった。一人でも十分に大人な文也でも優には完全に依存しているのは、仲間内ならみんなが知っている。そのおかげで今ハワイ旅行が実現しているのだ。

 普段は相手の判断を尊重する二人の珍しいお節介に、裕一は黙り込んでしまった。





[ 76/86 ]

[*prev] [next#]

[mokuji]

[しおりを挟む]


戻る



Copyright(C) 2004-2017 KYMDREAM All Rights Reserved
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -