卒業旅行探検記 1




 予定が急だったせいもあるのだろう。

 三列席を並んで二つ確保できたのは、主翼真上のエンジン音が多少うるさい位置だった。

 とはいえ、前方へ目をやれば遥か下に青い海が見える窓側席なのだから文句は言えない。

 さすがに高校生で海外渡航経験豊富なのは文也と優の二人きりで、後の四人は今回はじめてパスポートを取った海外旅行初心者だった。

 三月の平日。成田発ホノルル行きジャンボジェット機は、春休みを満喫する学生を半分ほど載せて、広い太平洋の上空を目的地へ向かって飛んでいた。まもなく到着するというアナウンスが、遊び気分で抑え気味ながらも大騒ぎな機内に静かに流れていた。




 大して広くはない飛行場に降り立った六人は、眩しい日差しに目を細めて真っ青に晴れ渡った空を見上げ、口々に感想を述べた。

「あっつぅ」

「それが第一声だよ、まったく。感動もあったもんじゃねぇ」

 桜前線が関東地方を過ぎた頃合の、まだ春コートにマフラーが手放せない気候の日本から、降り立ったのは南国ハワイ。暑いのは当たり前だ。

 羽織っていたシャツを脱ぎながらの太郎の悲鳴に似た感想に、真っ先に突っ込みを入れたのは優だった。こちらは事前に天気予報で現地気温を確認していた恋人に指示されて、とっくに半袖シャツのいでたちだ。

 ここから入国ゲートまでは徒歩で移動するらしく、先導する係員に従ってそれぞれ手荷物を肩にかけて歩き出す。旅慣れた文也の指示で全員が荷物は機内持ち込みサイズのかばん一つに納まっているため、荷物待ちの時間も不要。
 入国審査は英語が母国語並みの文也と有名国立大学に入学できる程度には使える正史と太郎が他三人をサポートして難なくすり抜け、待合ロビーに出た。

 『佐藤様ご一行』という日本語のカードを掲げた現地ガイドが、そこに待っていた。文也の祖父が創業した東証一部上場のキッチンメーカーが所有する保養所の、現地スタッフらしい。
 大型連休でもない年度末の平日など利用する社員もなく、宿泊する二日間は六人の貸切状態。現地料理が味わえる夕朝食付きで、社員やその家族は格安で利用できる保養所だが、普段は利用されない時間がもったいないと一般客にも解放されているのだそうだ。それが、今回は貸切。実に贅沢だ。

 待っていたのは保養所で雇われている現地ガイドで、男女一名ずつ。一人は運転手で一人はガイドなのだそうだ。

「アローハ。Welcome to Hawaii! ワタシ、皆さんをお宿まで案内するガイドです。名前はミック。よろしくネ」

 片言ながら自然に自己紹介するガイドスタッフは、待っていた男性の方だった。明るい調子で自己紹介して、六人全員の名前を聞いて回って、ついでに歓迎を表すレイを首にかけて、空港駐車場にとめた小型バンへ一行を案内する。
 その間、一緒に来ていた運転手の女性は手伝いはするものの声を出すこともなく。ただ、舗装の悪い道をすいすいと走っていく運転技術は一品ものだった。

 よく聞いてみれば、彼らは保養所で常任で雇われているスタッフなのだそうだ。ミックは客室係も勤める接客担当、女性の方はアキという名前で送迎バンの運転手兼料理人だ。保養所のスタッフは総勢五名。客室も四つしかない小さな宿なので、それで事が足りるのだという。

 宿に用意された客室がそもそもツイン二部屋とファミリータイプ二部屋だから、六人の部屋の割り振りもおのずと決まってくる。もちろん、ファミリータイプに文也と優、正史と太郎の二組を割り当て、他二部屋は裕一と保で別々に使うことになった。

 ホノルル空港に着いたのが現地時間で午前十時。ワイキキから少し離れた住宅街の一角にあるこの保養所にチェックインして午前十一時。

 六人は部屋に荷物を置いてロビーに集まると、昼食がてら早速街へ繰り出すことにした。




 保養所から公共バスを利用して約十五分。観光客が多く集まるワイキキの繁華街に到着する。観光地であるだけに観光客をターゲットにした割高な店舗が多いが、その分便も良い。
 ショッピングモールで有名なロイヤルハワイアンセンターと周辺に集まるさまざまなショップ、高級レストランから露天のファストフードカウンターまで幅広くニーズに応えている。一般店舗ではありえない、トラベラーズチェック取扱店が豊富なのも観光地ならではだろう。

 街に着いたのが昼少し前で丁度昼食時だったこともあり、バスを降りて友人たちを引き連れて歩き出した文也は、道端の露天商やカウンター店のスタッフに次々と声をかけていった。
 必ず一つは品物を購入しながら少しチップをはずんで問いかけるのは、近辺で地元民が通う美味しいハワイアンのランチが食べられるお店を紹介して欲しいという内容だ。旅慣れているとはいえ実に手際が良い。

 いかにも日本人な友人を連れていながら、品の良い東部訛りの英語を話す文也に、彼らはみな親切だった。それぞれが地元の人々が好むハワイアン料理の店を一つ二つ紹介してくれる。

 尋ねた七人中五人が口にした料理店を文也は選んだ。要は確率の問題。適当な答えやボッタクリ目的なら、返答はバラけるはずなのだ。それが集中するのだから本当に地元民に愛される店だと判断ができる。

 店はそれなりに混んでいたものの、五分待てば六人がまとまって座れるテラス席へ案内された。

 ロコモコ二皿と地元料理をいくつか、それに全員分のフレッシュジュースを注文して、六人はようやくほっと息を吐いた。料理を待つ間、宿でもらってきたガイドマップを広げる。

「で? これからどうする?」

「うち、御姐様方にお土産頼まれて来てん。免税店は一度寄ってな」

「はーい。パールハーバー希望!」

「同じく」

「ハワイといえばサーフィンか?」

「体験ダイビングとかやってないかな?」

「あ、あと、本場のフラダンス見たい」

 希望が全員バラバラだ。みんなの希望を聞いて、文也はうーんと唸った。

「今日はショッピングとフラ鑑賞、ついでに明日遊びに行く分のツアーを探してみよう。体験ダイビングとかなら、個人でダイビングショップに行くよりツアーの方が便利だよ。日本語の通じるツアーとかあるかもしれないし。で、パールハーバーは空港の向こう側だから最終日でどうかな?」

 つまり、別行動よりは全員で全ての希望を叶えようという案で。希望の通らないメンバーがいないこともあり、それは反対意見もなくすんなり受け入れられた。

 タイミングよく料理が運ばれてきて、六人はそれぞれに歓声を上げる。さすが地元の口コミ店。美味しそうな料理がテーブルに並び始めた。





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