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 とにかく、そんな姿では食堂へ行くことも出来ず、太郎は正史の部屋で留守番をさせて、正史は食堂のおばちゃんにおにぎりを作ってもらって持って帰ってきた。正史だけは食堂で食べて来れば良いものを、律儀にも二人分作ってもらってきて付き合ってくれるのだから、太郎は少し罪悪感を感じてしまう。

「ごめんねぇ、旦那。付き合わせちゃって」

「いいさ。そのかわり、本当に今回だけだぞ」

「うん。約束する」

 なんだかいつもより素直な気がするのだが、それが幼児化したせいの一過性のものだとは思いたくなくて、無理やり無視する。そうでなければ、今の約束すらも反故にされそうだ。

 太郎は、その小さな身体をすっぽりと正史に包まれて、もそもそとおにぎりを口に運んでいた。太郎の体の調子が悪い、と適当な言い訳をして作ってもらったおにぎりは、高校生サイズに出来ていて、今の太郎には少し大きい。それを、小さな口を大きく開けて食べるのだから、自然と無心になった。

 ようやく苦労して食べ終わって、満腹になって満足したのか、ふぅと幸せそうに息をついて、正史に寄りかかった。

「満足か?」

「うん。お腹いっぱい」

 無邪気に微笑んで答えて、太郎は正史を下から見上げる。その視線に、正史はヤバいほどに色気を感じてしまった。これが、幼稚園児程度のサイズしかないことは重々承知しているのだ。冷静に見て、幼い子供の一生懸命な目であることは一目瞭然である。そこに性的な欲求など差し挟まれるはずもない、はずなのに。

 正史の下半身の、正直すぎるその反応に、一瞬びっくりした太郎だったが、それからふと、いたずらを思いついたように意地悪く微笑んだ。

「旦那、今の俺にでも欲情してくれるんだ?」

「……うるさい」

 むすっと不機嫌な表情で、そっぽを向く。だが、その耳が真っ赤に染まっているのを、太郎の目は見逃さない。そっとそこに手を置いて、もう片方の手で甘えるように正史に抱きつく。

「……お前、その身体で、俺に襲われたいのか?」

「うーん。それも良いんだけどねぇ。無理かなぁ?」

「無理だろう」

 考える間もなく、即答されてしまって、その早さがおかしかったらしい。太郎がけらけらと笑い出した。

 どうやらツボにはまったらしく、なかなか笑いが収まらない。しばらくたって、さすがに心配になって、正史がその姿を見下ろす。と、そこにいたのは、笑いながら自分の体を抱きしめている恋人だった。少し苦しそうだ。

「どうした?」

「……ん。おかしいんだけど、……くるし……」

「っていうか、まず、笑いやめ」

 言われるまでもなく、苦しさを訴えている間におかしさは薄れたらしく、身体を押さえて丸くなった。正史にその身体を撫でられて、寄りかかってくる。

「大丈夫か?」

「何か、体の節々が痛い」

「……元に戻りかけてるんじゃないか?」

「……そーかも」

 確かに、と頷きつつ、寄りかかるだけでは心もとなくなって、正史にしがみついた。正史もまた、その身体を抱きしめる。

 しばらくそうしていて、太郎の額に脂汗が浮かぶのに、正史もさすがに不安になってきた。少しでも痛みを和らげようと、その小さな身体を抱きしめて撫でてやるのだが、どこまで効果があるのか、まったく不明だ。

「風呂にでも浸かって、体温めてみるか?」

「……うぅん。へぇき。……もうちょっとで戻りそう」

 どうやら、太郎自身は自分の体内の変化を感じているらしい。そうか、と頷いて、内部の痛みを和らげるために、軽く痛みを感じる程度に強めに抱きしめてやった。寒気もあるらしく、太郎の身体が小刻みに震える。そんな状態が、正史を不安にさせるのだが。

 と、正史の腕を押し返すように、太郎の身体がむくむくと膨らんでいく。

 その感触は、例えば、大きなビニール風船を抱きしめたまま膨らます感覚に似ていた。腕の中で、人肌の塊が膨らむ。ぶかぶかの服にピッタリ収まるサイズにふくれて、そこで成長が止まったのに、正史はほっと息を吐き出した。

 やがて、太郎が荒い息を吹き返す。

 正史にしがみついたままで、自分の荒れた息を懸命に落ち着かせて、ようやく太郎は顔を上げた。

 それは、いつも見慣れた、不敵な笑みが似合いの恋人の顔で。正史が感極まって思わずその身体を抱きしめる。

「ただいま」

「おう。……おかえり」

 元に戻った第一声が、まるで出かけていたかのようなセリフで、一気に日常に引き戻された。その言葉を、もし太郎が意識して選んだのだとしたら、末恐ろしい若者なのだが。

「もう、勘弁してくれよ。心臓に悪い」

「うん。もうしないよ。約束する」

 子供の身体をしていた間に言った言葉を繰り返して、太郎は自分の腕で抱きつくのにちょうど良いサイズの恋人に抱きついて、ようやくほっとしたように笑った。

「う〜ん。やっぱ、おっきい旦那より、このサイズの方が安心するわ」

「……そーか、そーか。良かったな」

 もう、脱力レベルも限界に達して、それ以上気の効いたセリフを思いつけない正史だった。




 後日。

「見て見て〜。じゃ〜ん。女の子になってみましたぁ」

 そんな、明るい声でとんでもないセリフを吐きつつ、男物の服では隠し切れない豊満なボディーを惜しげもなく晒して、今はまだ『探偵団』メンバーしかいない専用階の談話室に飛び込んできた保に、文也と正史は何も言い返せずに脱力してしまい、太郎は太郎で前科者のため咎めることも出来ず苦笑を浮かべ、優と残りの一人、裕一は、揃って涎でもたらしそうな顔でその姿を拝んだ。

 少なくとも、太郎はともかくとして、高杉教諭のいたずらは、もうしばらく止まりそうにない。



おわり





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