第五話 「裕一」 1




 学校に、学生探偵団が結成された。

 その情報は、掲示されて1日で、瞬く間に学校中に知れ渡った。

 なにしろ、生徒会活動も活発ではない学校である。その上、生徒の質が質だけに、問題ごとも実は絶えないのだ。おのずと、学生探偵団に期待が集まった。

 その期待の背景には、メンバーの顔ぶれも理由として挙げられた。

 一人は、理事長の息子である。何やら複雑な事情があって、苗字は違うのだが、彼が理事長の子である事実は、すでに学校中の常識であった。

 一人は、この学校始まって以来の超天才児である。ついでに言うと、学生作家でもあった。そんな立場にもかかわらず、学校行事の運営班には、必ずと言っていいほど彼の名前が挙がる。自分の天才ぶりを驕ることなく、学校に所属する学生の一人として、学校を愛している彼の気持ちの表れだ。

 一人は、これも学校始まって以来の、超絶美少年である。天使の微笑を持つ彼は、一年生の文化祭で学校のアイドルの座を確立し、それ以来、学生たちの目の保養としてそこに君臨し続けている。表も裏も大も小も合わせて、そのファンクラブの数は十を数えるという。

 一人は、これも学校始まって以来の、スポーツの天才だった。短距離走では学内記録をあっさり破り、野球、サッカー、バレーボール、バスケットボールなど、どれもこれもをそつなくこなして見せる。本人は中学時代からバスケットボールを続けており、実は中学で弱小だったチームを全国大会まで導き、今やプロチームからも引く手あまたなのだという噂だった。どこまで本当なのか、本人が話そうとしないので不確かなのだが。

 一人は、今の学生の中では一番の、不良少年だった。その鋭い眼光は人を寄せ付けず、大柄というほど大柄ではないくせに異様な存在感があり、事実校内の喧嘩で負けたことも無い。授業態度も決して良いとはいえず、教室を探すよりも喫煙室を覗いた方が、いる確率が高い。それだけに、きっと仲良くさえなれれば頼りがいもあるのだろうとは想像できるのだが。

 最後の一人は、やけに存在感の薄い人だった。最初、掲示に名前が載っていても、その掲示を見たほとんどの人の頭で、その名前と顔がまったく一致しなかった。他の5人に比べれば、驚くほどその知名度が低いのだ。だが、注意して目を向ければ、低い背丈に天然らしい茶髪の髪、青い石のピアスが、実に特徴的であった。今まで誰の意識にも上らなかったのが不思議なほど、特徴のある容姿をしていたのだ。さらに、メンバーの一人である不良少年と、最も近くにいる人物でもあった。

 集められた人間の側から見ても、その顔ぶれは、実にさまざまな、特殊な人々だった。リーダーに収まった理事長の息子。ナンバー2とも言える参謀役に、学生作家で学校始まって以来の天才児。他に、ロボット工学博士、負け知らずの喧嘩の天才、美少女と見間違うばかりの美貌の少年、スポーツ万能でプロバスケプレーヤーからお誘いがかかるほどのスポーツマン。自分を押し隠しているロボット博士以外は、いずれも学内の有名人だ。

 彼らの中にいると、リーダーに指名されたはずの正史は、いかに自分が何の特徴もない人間か、思い知らされる。父親のせいで微妙な少年期を過ごしてはいるが、このメンバーの中では一番平凡だ。

 そんな、少しは気後れもしている正史を、どうやら恋人である太郎は気づいて見守ってくれていたらしい。

 とにかくも、探偵団結成の告知が出されてから、特に目立った活動をすることも無いまま1週間が過ぎた、そんな土曜日の夜のことだ。苗字に藤が付くという妙な偶然は、この人選をした太郎も気づいていなかったらしく、指摘されて大笑いしていた。

「このメンバー、旦那がいないとまとめられないと思うけどねぇ」

 それは、寝物語にしては真剣すぎる言葉だった。正史の腕を枕にして、疲れの見える表情で彼は笑った。

 その日、寮内の一部で引越しがあった。1棟5階、特待生階に、5人引っ越すことになったのだ。正史は元々ここにいたので、後の5人を集めたわけである。部屋の作りが違っているわけではない。ただ、メンバーを一箇所に集めただけだ。今、特待生はいないので、6人と正史の義弟の専用階になった。実際、特待制度の適用を受けてもおかしくはないメンバーだが。

 必要な家具や電化製品は備え付けられている寮の部屋の引越しである。他のメンバーは、5、6回の往復で荷物の移動を済ませている。太郎だけが、あまりの荷物の多さに音をあげていた。

 事情を聞けば、確かに仕方がないのだ。そのおかげで部屋風呂が使用禁止になっていたわけだが、その荷物のほとんどが、ファンレターやプレゼント、小説の資料の類なのである。置き場所に困って、段ボール箱に詰められ、風呂場に山積みにされていた荷物だった。

 結局、ファンレターは実家へ、プレゼントは使えるものは使って残りは寮に寄付し、資料は新居の風呂場へ、それぞれ移動することになった。もちろん、自分の引越しのない正史も手伝っている。

 正史がリーダーという人事は、もちろん立場上の都合によるものなのだが、そんな事情がなくても、正史はリーダーに適任だ、と太郎は言う。

「そもそも、俺が惚れた相手だよ? もっと自信持ってよ。俺は、よっぽどの相手じゃなくちゃ、身体許したりしないって」

 ね?と甘えた声で問いかけて、頬にキスをする。それから、腕にすがりついた。

「しっかりして、リーダー。全員一致で認めてるんだから、何も問題ないよ」

 きっと元気づけているつもりなのだろう。その割りには、今にも眠ってしまいそうだが。

「何かきっかけがあれば良いんだろうけどねぇ」

 そう、声まで眠たげにとろんと溶けたまま呟く。考えてくれているのだろうが、何しろ他人の感情論では妙案も浮かびにくい。半分眠った頭では、何を考えようにも無理というものだ。

「良いよ。わかった。俺も必要だって言いたいんだろう? それがわかっていれば十分だ」

「本当に?」

 疑わしい視線を送られて、正史は苦笑する。もう、いい加減、限界らしい。目がすでに半開き状態だ。

「もう、寝ちまいな。疲れてんだろ?」

「んー。そぉする」

 おやすみぃ、ともごもご言って、3秒で寝息を立て始めた。よっぽど眠たかったらしい。正史は、そんな太郎を微笑みを浮かべて見守った。そっと髪をすいてやって。

「おやすみ」

 耳元に、囁いた。





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