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 その夜。

 夜のニュース番組では、こぞって御手柄高校生を話題に取り上げ、藤堂学園が一時的に一躍有名になっていた。
 二人を撮影できたのは、駆けつけが間に合った地元テレビ局と警察の報道部常勤記者のみで、二人とも報道陣には背を向けていたため、モザイクいらずだった。
 分かるのは、背の高いツンツン頭の不良っぽい少年が、背の低い茶髪の少年を守るように並んで立っていたことだけで、この学園の学生にならすぐに分かるかもしれないが、親類でもその見分けは難しいだろう。

 文也と優を残して引き上げた後、すぐに警察はやってきたらしい。時間から判断してそのくらいである。
 彼らは、散歩に出かけてきて犯人グループを発見し、学校に連絡をして本人たちは犯人グループを見張っていた、という設定で話をしていた。間違ってはいない。確かに、犯人がいないことを確認がてら散歩に出かけて、犯人グループを発見、学校側に連絡をとって、見張っていたのである。
 ただし、そこに関わったのがその二人だけでなく、実際は6人だったというだけの違いだ。注釈を入れるまでもない。

 ライフルと銃を持っている、という証言が、一番の御手柄だったらしい。その情報を元に特殊捜査班の派遣が決定され、スピード解決へと導いたのだ。ライフルらしきものを所持、だけでは動けなかったのだろう。
 犯人を見張るという危険な行為を叱った警察幹部が、よく知らせてくれた、と誉めたそうだ。もちろん、場所が高校であるということも、決定材料にはなっていた。

 裕一はその時、保の部屋にいた。一人でいると昼間の恐怖が今更ながらに襲ってきて、いても立ってもいられなかった。
 それは、訪ねられた方の保も同じだったので、来てもらえてありがたかった。肩を寄せ合ってお互いの体温にほっとして、二人は飽きもせず同じ情報を繰り返すニュース番組を眺めていた。

 やがて、裕一がため息をつく。

「俺は、何かの役に立ったのかな?」

「大活躍だったんじゃない?」

 間髪いれずに返した保を、裕一は驚いた目で見つめた。そういう答えが返ってくるとは思わなかった。慰められるのは想像がついたとしても。

「何で? 俺は、職員室に走って警察を呼んでもらっただけだよ?」

「それが、大活躍。さとっちとさいっちゃんの命を救ったじゃない。ボクの方こそ、何もしてない。ただ、くぅを預かって、見張ってただけ」

 実際、それだけだ。それだけでも、足ががくがくになるほど、恐かった。そばに太郎がいたのが救いで、そうでなければきっと、何もかもを放り出して逃げ出していただろう。それだけ、恐かった。

 そういえば、そんな恐怖が裕一に守ってもらえた途端に落ち着いたのを、今更ながらに思い出した。

「ボクって、ゆうくんと相性いいかもしれないね」

「え? なんで?」

 突然そんなことを言われても、裕一にとっては何の脈絡もなくて、驚いて聞き返す。保は、その聞き返しに答えるつもりはないらしい。くすっと笑った。

「あの4人はそれぞれ幸せカップルみたいだし。こっちはこっちで仲良くしましょ、ってお話。よろしくね、相棒」

 すっと手を差し出す。言われた意味を考えて、理解して、納得するまで約5秒。裕一は肩の力を抜くと、出された手を握り返した。

「よろしく」

 それは、仲良くといっても別にお付き合いをしようという話ではなく、友達として仲良くしていこうという意味で。
 いつまでもつかは分からない。保はもともと、基本的にノーマルキラーのバイセクシャルだから。
 他の2組に触発されることもあるだろう。しかし、今はまだお互いを良く知らない、知り合いの域だ。そんな色っぽい話はまだまだ先の話。今は今の関係を確立しよう。まだまだ先は長いのだ。

「さて、そろそろ寝ましょうか。ゆうくんは? 泊まってく?」

 そんな風に言えば真っ赤になって大慌てするのは分かっていての問いで、完全な確信犯。びっくりしてパタパタと手を振って、そんな反応を楽しんでいる保に気づいた裕一は、困ったように眉をひそめた。

「からかった?」

「からかった。ほら、一人寝が恐い歳でもないでしょ。戻んなさいな」

 そうする、と玄関に向かう裕一を見送りに出て、ひらひらと手を振る。玄関の戸を開けて振り返った裕一は、何を思ったか、保のそばに戻ってきて、平均身長はある保を見下ろした。

「何?」

 何か用事があるのだろう、そう思って裕一を見上げる保の華奢な身体を突然抱きしめ、唇にキスをして。

「おやすみ」

 バタン。

 何が起きたのやら、一瞬パニックしてしまった保の目の前で、誰もいない扉が閉まる。湿り気の残った唇を、思わず指でなぞり。

 にやり。そう、保の唇が笑みを作る。

「受けて立っちゃろうやないの」

 くっくっくっと、抑えきれない笑い声がこぼれる。実は一年半心待ちにしていた恋愛ゲーム。離れたくても離れられない立場に立った相手だからこそ、相手にとって不足はない。

 いつのまにか、昼間の恐怖をすっかり忘れている保であった。



おわり





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