5



『お名前、教えて?』

 ちょこん、とテーブルの上に座り、保を見上げている。左回りにめぐって、太郎と正史はすでに通り過ぎていたらしい。そのくぅに注目しているおかげで、全員が保を見ていた。

 くぅは、どうやらバービー人形などと同じ合成樹脂製であるらしい。ずんぐりむっくりの4頭身で、顔も実に精巧に出来ている。
 目はカメラになっているのだろうが、そうとは感じさせないプラスチック製で、瞳が大きく作られているのは可愛さを強調するためだろう。口も、喋るたびにぱくぱくと動く。
 一体誰が結ってあげているのか、金色の混じった茶髪の髪を、ポニーテールに結い上げている。膝丈のフリルスカートのワンピースが、より可愛さを演出していた。それをドレスにしなかったのは、こうして動き回るためなのだろう。かがむと下着が見えてしまうのはご愛嬌としても、丁度いい長さである。

「保、だよ」

『保? 覚えていい?』

 どうやら、駄目、という意味らしい。文也と太郎がそろって手を振る。その覚えた名前できっと呼びかけるのだろうから、確かに良くないかもしれない。この外見で呼び捨てにされるのは、なんとなく嫌だ。

「たもっちゃん、って呼んで」

『たもっちゃん? 覚えていい?』

 聞き返して、確認するのは、そうプログラミングされているからのようだ。同じ質問には同じ言い回しを使うところに、確かにプログラムで動いているのだと実感する。それがなければ、本物の人間の子供のように見えてしまうのだから恐ろしい話だ。

「うん。いいよ」

『覚えたっ。たもっちゃん、よろしくね』

 そう言って、裕一の前に移動していく。見送って、保は眉をひそめた。4人目の裕一は、すでに勝手が理解できていたようで、すぐに名前を教えてやることが出来た。全員分を覚えて、くぅが文也の元へ戻っていく。

『みんな、覚えたよ。たろちゃん、後藤さん、たもっちゃん、ゆうくん。合ってる?』

「合ってるよ。みんなに仲良くしてもらいなさい」

『はーい』

 ぱっと右手を上げて、元気良くお返事をするあたり、設定は幼稚園児なのかもしれない。言語知識もそのくらいだ。

 確かにめちゃくちゃ可愛いのは事実なのだが、保は一人、それをしかめっ面で眺めていた。太郎も正史も裕一も気に入ったように微笑んでいるので、不機嫌そうなのは保だけだ。

「どうした? 伊藤。機嫌が悪そうだな」

 丁度円卓の正面に座っている優が、保の様子に気づいたらしい。首をかしげて問い掛けてくる。それに促されて、全員分の視線が集まった。

「別に」

「って顔じゃないよ? 何か気に入らないの?」

 優と正史という通常仏頂面の二人に挟まれた太郎が、テーブルに両肘を乗せて、保の顔を覗き込む。それを受けて、ごまかしても効かない相手なのはわかるので、はぁ、とため息をついた。

「ロボットって、そこまで高度になってるのか、と思って。そんなになってるんだったら、もっと人の役に立てれば良いのに」

「あぁ、それは、まだ無理だろう。くぅが、今の常識から見てオーバーテクノロジーなだけで、一般的ではないから。大体、世の中の役に立てるくらいこの技術を利用されてれば、文也、大金持ちだよ。なぁ?」

 保の不機嫌の原因に、物知り顔で優がそう答える。しかも話を振られて、文也は肯定も否定もせず、軽く笑った。大金持ち?と全員が首をかしげ。一番最初に理解したのは、やはり太郎だ。

「特許か。いくつ持ってるの? これだけの技術で一つってことはないでしょ?」

「ん。内緒」

 現在収入があること、確定申告して所得税も支払っていることは、今のところ誰に対しても秘密なのだ。

「けち。いいじゃない。別にタカル気はないよ? 俺だって納税者だし」

「うん。知ってる」

 それでも、教える気はないらしい。ちぇっ、と少し不満そうに太郎は舌を鳴らした。実際、しかし、どれだけ収入があるかなど、太郎でも具体的には教えないだろうから、おあいこである。文也はなぜか楽しそうに笑った。





[ 25/86 ]

[*prev] [next#]

[mokuji]

[しおりを挟む]


戻る



Copyright(C) 2004-2017 KYMDREAM All Rights Reserved
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -