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 その優しい笑顔に、太郎がため息をつく。

「なぁ、さとっち。そういう顔、俺らの前以外では見せるなよ。さいっちゃんのライバルが3倍くらいに膨れ上がるから」

「っていうか、ボクの前でも止めて欲しい。襲い掛かっちゃいそう」

 はぁ?と聞き返したのは、自覚のないことだからということもあるが、それ以上に、その発言が保から出たことによるものなのだろう。同じような台詞を吐いた太郎はひとまず無視して、文也は保を見つめる。

「去年のミスに選ばれた超美人のたもっちゃんに言われても、何か、困っちゃうんだけど?」

 いつのまにか、あだ名が付けられている。しかも、あだ名のネーミングが太郎にそっくりで、太郎が向こうで腹を抱えて笑っている。何故笑っているか分からない正史が、隣でおろおろしているのが、なんだか新鮮に見える。

「たもっちゃんの笑顔には、勝てないでしょ」

「いくらボクでも、さっきのさとっちの笑顔は無理。心底心こもってないと、あんな顔できないから」

 一体どんな顔をしたのだろう。しみじみと保に反論されて、文也は今度こそ首を傾げた。
 それと同時に、保の方も、実は文也のそんな反応に、舌を巻く思いでいた。どうやら、自分のエンジェルスマイルが作り物であることを見破られていたらしい、ということが分かったからだ。
 ということは、太郎にもバレているのだろう。この二人は、どうにも要注意である。

 そこに、口をはさんだのは、やはり今までほとんど喋っていない、裕一だった。にんまり、といった感じの笑みを見せながら、文也をじっくり眺めている。

「斉藤って、羨ましいくらい愛されてるよなぁ。何? ああいう乱暴者系、好きなタイプ?」

 けっこう突っ込んでくる性質だったらしい。聞かれて、文也は別に驚きもせず、軽く肩をすくめて見せる。
 自分と優が、外見上、タイプのまったく違う者同士なのは、自覚があるのだ。だからこそ、そんな問いかけも想像の範疇だった。

「優に先に惚れられたんだよ。僕はだって、この学校を、目立たず騒がず存在すら知られずに出て行く予定だったんだもの。まぁ、求愛を受けたからにはタイプなのは違いないんだろうけど、きっかけは向こうが先。それに、乱暴者系っていうなら、僕だって大差ないから、似たもの同士だよ」

 さらっとそう返されたのだが、返した方はあっさりしていても、返された方はそれを聞き流すことが出来なかった。何しろ、とんでもないことを言われてしまったのだ。鵜呑みにしろ、というほうに無理がある。

「さとっちが? 乱暴者系?」

「どこが、どういう風に?」

 どう見たって、真面目な一般的生徒にしか見えない。外見の問題だけではなく、普段の生活態度からしても、今現在の雰囲気で見ても。容易に信じられるレベルを超えている。だが、そんな問い返しを、文也はいともあっさりと肯定して見せるのだ。

「今ここにいる中では、一番だと思うよ? 優とはやってみたことないから、どっちかなぁ? だから、荒事要員には加えていいからね、たろちゃん」

「本当に、大丈夫なのか?」

「文也の喧嘩の強さは、本場アメリカのヤンキー連中の御墨付きだぞ。ミッキーはともかく、トミーが友達な時点で、説得力もある」

 いつの間に戻ってきたのか、それは優の声だった。そこに出てきた名前がカタカナ名なのに、他4人が顔を見合わせる。いくらなんでも、直接会っていない限り、呼び捨てには出来ないはずなのだが、それにしても相手は外国籍の人間である。しかも、優の言葉を信用するならば、アメリカ国籍の本場の不良少年たちで。

「さいっちゃんも知り合い?」

「夏休みに、文也に連れてってもらったんだよ。そこで知り合った。文也の友達って、すげーのばっかだぞ。この文也が普通に見える」

「十分普通でしょ?」

「本気で言ってるか? 文也」

 そんな風に、実は両親よりも隠し事がない恋人に突っ込まれて、文也は軽く肩をすくめた。それはしかし、文也にとっては、比較対象が、今、優に『文也が普通に見える』といわれた人々なのだから、仕方がないのかもしれない。
 それにしても、中学生がぽんっと飛び級して大学生になってしまったのは事実で、博士号を取ってしまったのもこれまた事実なのだから、諦めて認めなさい、と言われても、反論の余地はない。

「文也は天才だよ。な、くぅ?」

『うん。ふーちゃんは天才だよ。ね、まぁくん』

 聞きなれない、少女の声が聞こえてきて、全員の注目を集めた。女の子の声、ということが、男子校という場所柄、新鮮に聞こえたのもあるが、それ以上に、その声が機械的だったからだ。確かに、優は文也の作ったロボットを取りに行ったのだが、それにしてもその声は驚くに値する。

「くぅまでそういうこと言うし。優、あんまりくぅに変なこと教えないで」

『事実だよ。ふーちゃん』

 優が突っ込みを入れるより先に、くぅが答えてしまう。同じことを言おうとしていたらしい、優が苦笑を浮かべた。文也としても、何しろ我が子に言われてしまったわけで、反論が出来ない。その代わり、しがみついていた優の肩から下ろしてテーブルに乗せる。

「くぅ。ご挨拶して」

 向けたのは文也から見て正面で、円卓になっているこのテーブルでは、他の5人が見渡せる。優はすでに知っているので、初対面は他の4人。その、それぞれの顔をきちんと認識しているらしく、くぅは優は見ずに他の4人を見渡した。

『はじめまして。くぅだよ』

 その仕草が、ロボットとは思えないほど自然で、愛嬌もたっぷりなので、全員の表情に笑みが浮かんだ。くぅは、そう挨拶すると、背後にいる文也を振り返る。

『みんなのお名前、覚えてもいい?』

「聞いておいで」

『うん』

 まるで幼稚園児か小学校低学年児童の反応である。こんな手のひらサイズの小ささでなければ、文也の隠し子を疑ったところだ。
 これが、文也の開発したロボットだと言う事実を思い出して、保は改めて文也を見つめた。今現在、ロボットの世界はもっと遅れていると思っていたのだが、これならば鉄腕アトムも夢ではない。





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