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彼と路地裏で初めて会ってから、一週間が経った。
俺の隣には、当然のように美岐がいる。この関係は、親父っさん、つまり、うちの組の組長も公認の、俺の恋人の位置だ。
美岐は俺を一目惚れだといったが、俺にとっても同じようなものだ。偶然助けた相手が、こんな美人で、何の不満があろう。何度も言うが、俺は面と性格さえ俺の趣味に合えば、対象範囲は広いのだ。
しかも、この男の策略家ぶりと来たら、絶対に敵に回したくないほどのえげつなさを持ち合わせていた。
そもそも、実家をあそこまでボロボロに叩き潰すとは。俺も驚いた。抗争を阻止するくらいだと思っていたら、とんでもない。今、美岐の父親は、幹部連中と共に拘置所暮らしを送っている。うちの組に企んだガサ入れの口実と同じ、銃刀法違反の罪で。
後、残った問題といえば、結局キャンセルのしようがなかった警察幹部への身売りだが、あれからは通常通りに大学に通っていた彼のどこにそんな暇があったのか、今朝の新聞にはその予定の警察幹部が、指定暴力団との癒着で失脚した一部始終が載せられていた。多分、美岐の仕業だ。
そう。美岐の現在の本職は、学生だ。今、法学部の4年生だという。司法試験には今年受かる予定だ、と美岐は自信ありげに胸を張っていた。まぁ、多分予定通り突破するだろう。この頭脳は、伊達ではない。
実家が大破し、竜水会は解散してしまったのに、どうやって生活費や大学の学費を捻出しているのかと聞いてみたところ、彼は元々、いつかはこうして実家を逃げ出すつもりでいたそうで、それなりの貯蓄と財産を築き上げていたらしい。現金貯蓄で1千万円。株の売り買いで生活資金を稼ぎ出し、さらに彼名義のマンションも1室。これには俺も、参った、の一言だった。
返す返すも、絶対、敵に回したくない。美岐だけは。
その彼は、今、幸せそうな表情で、俺の腕の中で眠りについている。線のやわらかい華奢な身体が、俺の腕の中にすっぽりと納まって、まるで胎児のように丸まっていた。肌のいたるところに、俺がつけた赤い痣を浮かべている。その一つ一つを、どうやってつけたか思い返すうちに、欲しい気持ちがまたむくむくと膨らんでくる。
抱けば抱くほど、この身体から離れられなくなる。もがけばもがくほど逃れられない、蜘蛛の糸かアリ地獄だ。それが、俺にとって幸せに感じてしまっているから、始末に終えない。
うん、と寝惚けた声をして、美岐が身じろぎをする。俺に見つめられているとも知らないで、気持ち良さそうに寝息を立てている。
「美岐」
返事がないことは承知で、声をかけた。少し長めの、さらさらの髪を掻き上げ、額にキスを落として。
明日は土曜日。1週間、次の日の学業に支障を来たすからとお預けを食っていた俺には、枷をはずしても構わない夜だ。
「美岐。起きないと寝込みを襲うぞ」
そんなつもりはもちろんない。でも、ここまで気持ち良さそうだと、言いたくもなる。
と、いつの間にか目を覚まして寝たふりをしていたらしく、突然美岐が笑い出した。
「孝臣さん、鬼畜」
「お前は小悪魔だよ、美岐」
まったく、14歳も離れた俺を、こうも翻弄してくれるとは。さすがはヤクザの親分の家に生まれた跡取り息子、というべきなのか。
くすくすと楽しそうに笑う美岐を、俺は自分の腕の中に組み敷いた。
「良いんだろ?」
「朝まで、寝かせないつもり?」
「日曜の昼まで、ここから逃がさないつもりだ」
「それは、覚悟しなくちゃね」
「あぁ。覚悟してくれ」
軽口で応酬した言葉とは裏腹に、美岐の腕は俺を幸せそうに引き寄せる。俺もまた、引き寄せられるままにその身体にキスをする。たとえ年の差は一回り以上でも、俺と美岐の立場は対等の恋人だ。こうして欲しがられれば、与えてやりたい。欲しがる限り、どこまでも。
美岐はきっと、俺の運命の相手だ。今までの性体験は、美岐を天国に送ってやるための、準備期間だったに違いない。
仕事のためとはいえ、自分の身体に施した気味の悪い作り物を、彼の身体は柔軟に受け止め、狂うほどに酔いしれてくれる。手加減などしようものなら、一方的に搾り取られそうなくらいに。
「美岐」
「……ん?」
俺がその胸元をまさぐるのに息を弾ませていた美岐が、呼ばれて答える。甘ったるい声が、俺の欲望を煽り立てる。
「愛してる」
それは、今まで、この世の誰にも言ったことのない言葉だ。本当なら、照れくさくて、誰にも一生言わないだろうと思っていた言葉。だが、この恋人には、何故だか、言っておきたかった。生涯でこれが唯一になるとしても。
「……ホント?」
「あぁ、本当だ。美岐は?」
「貴方以外の人には、触られたくない。……あぁっ」
本性からは考え付かないほどいじらしい言葉を囁かれて、俺は堪えきれず、その性器を口に含む。俺のモノとは違って使い込まれていないそれは、綺麗なピンク色をさらに充血させて、俺を誘っていた。一度快感を覚えたら、それを期待してしまうらしく、美岐の下の口が俺の指を嬉しそうに飲み込む。俺の愛撫の一つ一つに、溶けていく。
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