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 孝臣さんは、俺と二人で暮らすことになって、新しくマンションを買った。

 最近、平塚では新築分譲マンションが乱立していて、そのうちの1軒なんだけど、南口で駅から徒歩8分の低層マンションの最上階角部屋で、間取りは3LDKの世帯向け。元々4LDKに作られた大きさの部屋を、カスタマイズ可な所を利用して、一部屋潰してLDKを大きく作ったんだ。

 何しろ、俺たちの場合、もし一生添い遂げるなら、子供は絶対にありえないからね。

 寝室は、そのLDKの一角。衝立で部屋を切って隠して、その奥にキングサイズのベッドを置いている。他の3部屋は、客間に孝臣さんの仕事部屋に俺の勉強部屋。

 今は、孝臣さんと二人、ベッドに横になっている。

 なんかね、高岸さんと別れてから、孝臣さんの機嫌が良くないんだ。せっかく美味しいものを食べに行ったのに、始終不機嫌顔で、もったいなかったかも。

「ねぇ。どうしたの?」

 珍しく、俺に手を出そうともせずに布団にもぐってしまった孝臣さんに、俺は甘える。だって、なんか不安。

 俺、何か悪いことをしたんだろうか? 自覚がないから、困ってしまう。

「いや。美岐は何故、俺を選んでくれたのかと考えていた」

 何で、また、今更そんなことを気にするのだろう。とても不思議だ。

 でも。ベッドにもぐって腕を組んで、天井を睨みつけている孝臣さんに、俺は軽口を返すことが出来なかった。ただ、隣に寄り添って、甘えて見せるだけだ。

「そこに貴方がいてくれたからだよ」

「まぁ、状況としてはそうなのだろうけどな」

 確かにね、一日前に出会ったばかりの、まだお互いのことを何も知らない時から、俺はこの人を選んだから、不審には思われて当然かもしれないけど。

 でも、あれから今まで日を重ねてきて、俺のとっさの判断が間違っていなかったことを何度も確認している。

 この人にあのタイミングで会えたのは、きっと神様の悪戯だ。

「お前に嫌がられることはあっても、まさか頼られるとは思わなかったぞ? 最初の時だって、強姦に近かった」

「だって、あれは俺が望んだことだから……」

「1週間後に控えている仕事に自棄になってたからな」

 う。

 まぁね。見も知らない親父に身売りする羽目になっていた俺が、通りすがりの恩人に身を委ねることを躊躇しなかったのは、自暴自棄になっていたのも理由の一つだ。

 否定はしないよ。

「でも、貴方は優しかったよ?」

「反応が初々しかったから、気を遣ったんだ。普段はあんなに手間隙かけない」

「じゃあ、無理にスレた態度をとらなくて正解だったんだね」

 あの時優しくしてくれたのが、今の状況を導いた最大の要因。それは、俺自身にも自覚がある。

 優しく優しくほぐしてくれたから、痛い思いをまったくしなかったんだ。敵組の幹部バッチをしていたから、その身分にあっても人に優しく出来る孝臣さんに、この人なら任せても大丈夫だって感じた。それが、理由だったんだ。

 だってさ、初めてで連続3回って、どうよ?

 この人、こう見えて俺より一回り半も年上のオヤジなんだよ?

 相性抜群、ってやつじゃないの?

「……美岐?」

 本気で悩んでいる孝臣さんを面白がって笑っていたら、それが不思議な笑い方に見えたらしい。心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

 ほら、このへんがね。ヤクザの舎弟頭っぽくない。純粋に、愛しい恋人にみえる。

「どうした?」

「うぅん。悩んでる孝臣さんも色っぽいなぁって」

「……大人をからかうなよ」

「え〜? 孝臣さんの大人の色気って、俺羨ましいんだけど?」

 これは、事実。羨ましい。この色気を俺が醸し出すまでに、最低でも10年は絶対必要。どこからどう見ても、俺はお子チャマでしかありえない。

 事実だから、心底そう思う、としみじみ訴えれば、孝臣さんはクックッと笑った。





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