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 大学が夏休みに入ると、春賀は予定通り合宿教習のため、山梨へ旅立ってしまった。そのまま、静岡の実家に帰って免許を取り、東京に帰ってくるのは九月の予定だという。

 大学は、前期の最後に試験を行い、終わったところから夏休みに入って、後期の開始は九月半ば、という、一般的な二学期制をとっている。例年は夏休み中はギリギリまで実家で過ごしていたのだから、今年は東京に戻ってくるのも早い、と言えた。

 それは、卒業論文のせいでもあったのだが。

 春賀は現在、大学の四年次生である。就職活動に卒業論文にと、本来であれば孝虎と毎週末遊んでいられるほど暇ではない。さらに、春賀の所属する学部は法学部で、そろそろ司法試験も大詰めを迎えており、バイトに精を出している余裕などあるはずがないのだ。

 春賀自身に、その自覚があるのかどうか、さっぱり勉強している様子も見えないのだが。

 とにかく、春賀が夏休みに入って自動車の教習に行ってしまうと、孝虎は何だか魂が抜けてしまったように、ぼけーっと土曜の昼を過ごしていた。

 孝虎の自宅は、東京の下町に場違いなほど広い敷地を置く、純和風の大豪邸だ。

 孝虎の父親が組長を務める指定暴力団「住吉組」の本拠地は、上野を最南端とする東京二十三区の北部一帯で、いわゆる下町に属する古い町だ。東京にある暴力団の中では、縄張りの面積は広い方だが、収入はあまり芳しくはない。

 住吉組の組長は、実に古いタイプの親分肌で、家訓は「無関係のカタギさんには迷惑をかけない」であり、それが徹底されていることがアピールされているから、実は警察の網の目からこぼれる確率が非常に高い。意外と盲点になっているところが、都合が良い部分もあるのだ。

 孝虎は、実家の他に、大田にも自分のマンションを一室持っている。普段はマンションを使っている孝虎は、土日の昼間だけは、春賀と会えないと、たいてい暇そうに実家の自室の畳の上にごろりと寝転がっている。

 その日は、春賀がいなくなって二回目の土曜日だった。

 孝虎は、若者には身体の毒だと思えるほど、だらりとしたようすで、居間の大型テレビを相手にテレビゲームにいそしんでいた。

 まず聞こえてきたのは、騒々しい人の足音。続いて、戸口から聞きなれた声が発せられる。同じく居間にいる組長が、喧しい、と答えるのを許可と判断したのか、そこに現れたのは、普段孝虎にぴったりついている、あの中村だった。

「失礼します、若」

 中村の声かけで、用があるのは自分ではないと知った組長は、また読みかけの新聞に視線を落とす。孝虎は、コントローラーを持った状態で画面を見つめていたが、それからちらりと中村に視線をやった。すぐに、視線は画面に戻ってしまう。

「ちょっと待ってろ。今良い所なんだ」

 言うとおり、画面上ではコマーシャルでもおなじみのあのロールプレイングゲームのキャラクターのキスシーンが、フルCGで作られ、表示されていた。なるほど、確かにいいところだ。

 やがて、ムービーからゲームに戻ると、ようやく孝虎は中村を振り返った。

「何だよ」

「橘さんのことで、お耳に入れたいことが」

「春賀のことで?」

 言われた途端、孝虎は訝しげに眉を寄せた。





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