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 ショッピングモール内は、いろいろなテナントが入っていて、雑貨を見て回るだけでもまったく飽きが来ない。

 五軒目に入ったところで、孝虎はふと、その場に立ち止まった。

 そこは、純和風の雑貨屋だった。孝虎の目の先には、図柄も涼しげな京扇子が並べられている。

「お袋さん、何歳だっけ?」

「そろそろ五十」

「いい頃合じゃないか? 扇子」

「うん、そうだね。一本くらいは入用かも」

 促されて、春賀は孝虎の提案に尊敬の眼差しを向ける。自分では思いつかなかった、という意味なのだろう。

 だが、実に熱っぽい瞳で見つめられて、孝虎は気まずそうにそっぽを向いた。そのまま、少し離れたところに佇んでこちらを見守っている中村に手招きをする。

「中村。お前、選べ」

 言われて、中村が近づいてくる。お願いします、と春賀にまで頭を下げられて、中村は恐縮して手を振った。

 そもそも、この中村、孝虎の付き人のように始終共にいるが、これでいて組の中では幹部に列する立場であって、中村自身が顎で使える手下も何人もいる身分である。
 この立場で、何故、若の「男遊び」と組幹部から揶揄されている春賀との遊びに付き合っているのか、周りの人間は一様に首を傾げる。それは、孝虎も同じで、ただ、楽しそうに付き合ってくれているから放って置いているだけだ。

 やがて、同じく扇子を吟味している春賀の隣に立っていた中村が、その中の二本を選び出して、春賀に差し出した。

「今ここにある中では、この二本がお勧めです。どちらでも、どうぞ」

 中村自身が扇子を使う趣味は特にない。ただ、年齢が贈答先の母親に近いことと、孝虎が認めるセンスの良さが採用されただけだ。

 差し出された扇子は、一方は紫陽花、一方は川を泳ぐ鮎の図柄が描かれていた。二人の間から顔を出して覗き込んで、孝虎も感心したように眉を上げた。

「俺なら紫陽花だな」

「じゃあ、そうしよう」

 孝虎の意見を受けて、さして考えもせず、春賀はその一本を中村の手から受けとり、レジへ持っていく。その、全面的に孝虎の意見に従う行動に、残された孝虎は中村と顔を見合わせ、首を傾げてしまった。

 最近、顕著に現れ始めたことなのだが、春賀は何か決めることがあると、孝虎に意見を求めてそのまま実行してしまうところがある。自分の意見を持たない、というわけでもないのだろうが、自分で考えることを億劫がる節があるのだ。

 友達づきあいを始めた最初の頃は、孝虎の出自のせいもあったのか、だいぶ従順に従う姿勢が見られていたが、慣れてきた頃には自分の主張をはっきり表していたし、意見が食い違うことも何度もあった。
 それが、今は、こうしてことあるごとに違和感を感じてしまうほどに、孝虎の意見にことごとく従ってしまうのだ。自分の意見などまるでないかのように。

 やがて、会計を済ませて戻ってきた春賀を、孝虎は自然な仕草で腰を抱き寄せ、顔を覗き込む。

「この後、どうする?」

「お昼。せっかく横浜だし、中華街で飲茶食べ放題、ってどう?」

 尋ねられれば、こうして自分の意見を返してくるだけに、従順なところが一層目立つわけなのだが。

 なるほど、良い案だ、と孝虎も頷き、二人はモールの出口へ向かって再び歩き出す。それを、中村は五メートルほど距離を置いて、再び追い始めた。

 孝虎も気付いている春賀の変化に、訝しそうに首を傾げながら。





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