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寄り道をしながら帰ろうと思う、と言うと、快く送り出してくれたおふくろさんは、静岡の観光地をいくつか教えてくれたついでに、春賀の目のないところで、こんなことを言っていた。
「至らない息子ですけれど、貴方にすべてお任せします。どうか、生涯添い遂げてください。私の都合で振り回してしまって、『家族』を知らない子ですから、私の代わりに、家族の温かさを教えてあげてくださいね」
つまり、次郎長一家に憧れ、断然次郎長、と宣言していた春賀は、次郎長親分に父親や母親を当てはめて見ていたのだろう。俺が好きだと言った森の石松は、春賀にとっては兄弟のようなもので、親父には勝てないわけだ。
すぐには無理でも、うちの一家の一員として、家族を持つ幸せを味わってくれたら良いと思う。次郎長一家とはいかないまでも、その義理人情の温かさは負けちゃいねぇさ。
あの次郎長一家の大所帯を受け入れていたとは思えない小さな古い家の前で、楽しそうに中を覗き込む春賀を見やりながら、俺は決意を新たにする。
春賀を、幸せにしてやるんだ。俺の、全身全霊をかけて。
「春賀」
「ん〜?」
「明日、どこに行きたい?」
「どこでも良いよ? 孝虎の行きたいトコ。静岡県内なら、ガイドは任せてよ」
「ダメ。春賀の好きなところに行きたい」
何で?と首を傾げたその仕草がなんか可愛く見える自分の、未だにヤラレっぱなしな節穴の目に呆れつつ。
俺が答えないので諦めたらしく、じゃあね、と考える春賀に、俺はこっそりと思う。
二十二年前、この清水の地に生れ落ちてきた春賀に。
生まれてきてくれて、ありがとう、と。
これから先は、俺と同じ道を歩く彼に。
そして、彼をこの世に作り出した両親に。
神様に。
感謝の言葉を捧げよう。
何度でも。
俺のそばに、生まれてきてくれて、ありがとう。
これからも、よろしくな。
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