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「だがな、春賀。普通、世の父親が、そんな非常識なことを、はいそうですか、と認められると思うのか?」

「無理だろうね。だから、彼を婿と認める必要はないって。これが事実だって認識してくれれば」

 いや、できれば婿として認めてもらえると、組的には助かるんだけどな。どうせ、少し調べれば俺の素性なんて簡単にわかってしまうことだし。できるだけ、面倒は避けたい。

 うん。できるだけ、というか、極力避けたい。

「春賀。俺が、話しても良いか?」

 春賀に任せておくと、何だかこのままになってしまいそうなので、横から声をかけた。案の定、首を傾げて返されたが。

「良いけど。さすがに怒らせると怖いよ?この人」

 つまり、春賀と同じ調子で話したら怒るだろう、との認識は、春賀にもあるのだろう。ヤクザに対するこの物言いが天然だったら、さすがに俺も気が気じゃない。

「わかってるさ。っていうか、春賀よ。俺、誰だと思ってる?」

「住吉組の若様」

「わかってんじゃん。なら、任せろよ」

「うん」

 俺も言わせるつもりで問いかけたからまったく問題はないんだが、春賀も、自分の父親がヤクザの組長と知っていて、よくその肩書きを簡単に口にするよな。その度胸は、俺も見習いたい。

 春賀が言った俺の肩書きに、さすがに驚いたらしく、春賀の両親は二人とも目を見開いて俺を見つめていた。

 っていうか、もしかして、見えなかったのか?

「……住吉組、ってな、俺の同業者か」

「東京にシマを持ちます、一応警察庁の指定暴力団の一つです。穏健な方ですが」

「穏健だぁ?」

 そりゃまぁ、ヤクザって職業柄、乱暴な手段を取る事は辞さないけれど。今時の、拳銃振り回してドラッグ売りさばいてカタギの皆さんに迷惑をかけているやつらとは、できれば一緒にされたくない。

 が、東京の暴力団といえば、というイメージがあるのか、実に訝しげに眉を寄せ、かなりめちゃくちゃ疑わしげな声で聞き返されてしまった。

 その声に、春賀が小さく笑い出している。親父さんの想像も俺の言う事実もわかった上で、認識の違いに受けたのだろう。

 正直、俺だって、高校生だった頃、進路を真剣に悩んだのも、その辺の事実と想像のギャップのせいだったし。元々、ヤクザなんて継ぐ気はなかったんだよ。銃刀法と麻薬取締法は絶対に守る、という約束をもらって、跡継ぎを了承してるんだ。穏健、って言葉に嘘はない。

 が、親父さんはそんな俺の言葉を鼻で笑い飛ばしてくれた。

「ヤクザに穏健な野郎なんざいねぇ。この業界にいて、そんな言葉が出てくるような男の言うこと、信用できるか」

「……確かに、そうですね。失礼しました」

 ここで、でも、と自分の主張を通すのは得策じゃない。親父さんの気持ちを意固地にさせるだけだ。ここは、素直に認めて謝るのが一番。

 そうして腰を低く話していれば、言葉でなくともわかってくれるだろう。実際、俺が頭を下げたことで気持ちが少しは落ち着いたらしく、親父さんも落ち着いてくれ、俺の正面に当たるソファにどかっと座った。それから、母親に手招きして、自分の隣に座らせる。

 春賀は春賀で、早々に俺の隣に座ってしまい、俺の袖を引っ張った。親父さんにも顎をしゃくられて、素直に腰を下ろす。





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