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富士山の南側をぐるりと回るように走って、目的地にたどり着く。時刻は丁度昼前。
静岡県静岡市。というか、清水。あの、次郎長で有名な港町だ。
ちなみに俺は、森の石松がお気に入り。あんな子分がいたら、楽しいだろうなぁ。ま、心配もたくさんするんだろうけど。
春賀は、断然次郎長親分っ、なんだそうだ。そんなに力入れて断言されると、なんだか妬いてしまうのは、俺の感覚がおかしいのだろうか?
春賀の家は、街の中心部から程近いマンションの最上階にあった。元は4DKだった部屋をリフォームした3LDKで、ここに母子二人で暮らしていたらしい。それにしても、春賀が高校生になるまで認知もされていなかったはずだから、父親の援助もなかっただろうに、この暮らしぶりは少し不思議だ。
玄関のチャイムを鳴らしても応答はなく、春賀は半ば分かっていたかのように肩をすくめて、自分の鍵を取り出した。開けて入れば、そこは留守宅だった。
「良いのか?」
「仕事だよ。緊急で呼び出されたんじゃない? あぁ、ほら、置手紙。急患だって。時間が明け方だから、そろそろ帰ってくるでしょ」
……急患?
「……あれ? 言ってなかったっけ? うちの母親、医者なの。すぐ近くの総合病院の、今は医局長」
「聞いてねぇよ……」
そういや、春賀の父親のことは聞いてるが、母親のことは何も聞いてないや。ヤクザの愛人なら多分お水系だろう、と高をくくっていた。
そうか、女医か。
「春賀の春賀たる所以が分かった気がする」
「なんだよ、それ」
そうそう。だいたい、ずっと不思議だったんだ。ヤクザとその愛人の子供が、東大法学部にストレートで入って、在学中にほとんど勉強らしい勉強もしないで司法試験をパスしたその頭脳のルーツが。そりゃ、母親が医者じゃ、その明晰な頭脳は遺伝だ。
ついでに、その美貌のルーツも、やっぱり母親かな?
「おふくろさん、美人だろ?」
「……あぁ。孝虎の思考がやっと分かった。あのねぇ、確かに頭が良いのは母親の血だけど、顔は父親似だよ、俺。ま、母さんもブスじゃないけどね」
マジで? それはちょっと想像がつかなかった。だって、今俺が入手している情報では、春賀の父親はこの清水を地元とするヤクザの組長で、それなりの威厳がきっと必要なはずで。
春賀をどういじっても、荒っぽい男どもが慕い従う組長像には程遠い気がするのだが。
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