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 そうして待ちに待った土曜の朝。

 普段なら春賀に怒られるまでベッドでまどろむ俺は、この日だけはまったく逆で、太陽と同時に起き出して、ダブルベッドの隣で眠る春賀を叩き起こした。

 叩き起こすといっても、そりゃもちろん言葉のあやで、実際にはコーヒーの芳醇な香りを引き連れて、優しく揺り起こしたわけだけどな。

 俺が、春賀に、手なんかあげられるはずがないんだから。

 静岡に行くぞ、と春賀に言ってアポイントを取ってもらったのが、実は一昨日。計画性がない、と笑われてしまったのだが、だって、春賀の誕生日ってところに意味があるんだから、仕方がない。

 そもそも、それを本当はホワイトデーに言い出す予定だったんだ。引越し騒動ですっかり予定が狂わされた。

 朝食は、もちろん、先に起きた俺が作った。ちゃんとした料理は、春賀に負けるけどな。トースト、サラダ、オムレツ、コーヒー、くらいなら俺だって用意できる。中でもオムレツは、俺の得意料理でね、ふわとろのプロ仕様だから、春賀に喜んでもらえたよ。なかなか気分が良い。

 車の運転は、二人で交代することにした。若葉マークの春賀とペーパーの俺じゃ、どちらの腕も似たり寄ったりだから、ずっと運転して疲れるよりは、休みながら交代しながらの方が良いと思うんだ。

 家を出たのは、まだ土曜日では道も空いている午前7時。マンション1階の駐車場を出て、すぐそばを走る環八へ出る。もちろん、愛車のパールホワイトシーマだ。

 先に運転を始めた俺は、ナビに従いながらも、ずっと練習してきた東名入り口までの道を辿った。といっても、東名の入り口ってヤツは環八に接続しているから、迷いようがない。

 朝早いせいだかなんだか知らないが、そこを走る車はみんな早くて、まだ運転に慣れない俺は、後ろからトラックに煽られながら、一番左の車線を走った。一般車が少ない分、前も後ろもトラックで、結構恐い。

 おかしいな。メーターを見れば、それでも90キロは出てるんだが。トラックの高速最高速度って、80じゃなかったのか?

 とにかく、入り口を入ってから東京料金所に着く頃にはさすがに高速走行にも慣れてきて、俺は真ん中の車線に移動した。料金所は、ETCがついているからノンストップ。この辺は、勝元の運転を見ているから戸惑いもない。

 助手席に座って、春賀はひっきりなしに喋っている。内容は、主にこの一週間のテレビ番組で得た知識の披露だ。どこそこの番組でこんなことを言ってた、というものなのだが、これがまた、春賀らしい番組選択で、報道モノか知識モノばかりだった。

 俺の仕事時間は少し一般とは違う。昼過ぎに起き出して、経済新聞に目を通し、夕方近くに家を出る。帰ってくるのは深夜零時近い。だから、俺のいない間、暇を持て余している春賀は、ひたすらテレビとインターネットで有り余る時間を潰しているわけだ。

 今まで全力疾走で走ってきた分、休憩中なんだそうで、暇なら俺に付き合うか?と聞いた提案は丁重に断られてしまった。

 ま、俺の日常は、春賀には危ないか。

 車は、高い壁に視界を遮られたひたすら続く高速道路を、西へ向かってひた走る。根っからの東京都民な俺は、意外と都内の外の地理を知らなくて、東名のインターもなんとなく聞き覚えがある程度なのだが、春賀はどうやら地理にも詳しいらしい。

 横浜町田インターを過ぎたところで、こんなことを言い出した。

「次の海老名のサービスエリアで休憩しようか。次は、俺が運転するよ」

 実は、今回二人きりで出かけてくるにあたって、うちの幹部連中から口を酸っぱくするように言われたことが一つだけある。それが、高速道路では出来るだけ大きなパーキングで休憩すること、というものだった。

 つまり、人の多い場所なら襲撃される可能性も低くなる、というわけなのだが、それにしてもちょっと気の回しすぎだ。

 海老名SAの看板を見つけて、矢印に従って入っていけば、そこはかなり大規模なサービスエリアだった。聞けば、春賀が事前に休憩できそうなパーキングを調査していてくれたらしい。

 さすが春賀。参りました。





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