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 男、住吉孝虎と、青年、橘春賀は、同い年だった。

 孝虎の職業は、暴力団幹部だ。関東連合諸組織に列する暴力団、住吉組の総長、孝蔵の一人息子であり、親の必死の説得に屈して、後を継ぐべく修行中の身である。
 高校卒業時から、突然幹部として仕事をはじめて、ようやく三年。どうやら商才があったらしく、彼がオーナーとなって経営しているパソコンショップや金券ショップ、貸し金融機関に至るまで、すべての店舗で順調な売り上げを見せている。今や、ショバ代と直営の飲食店が主な収入源であったそれに、並ぶほどの勢いだ。

 彼は大して口を挟まずに、任命した店主を信頼して全権を委ねているので、彼の仕事は、それぞれの店を定期的に回り、売り上げのチェックと更なる戦略の伝授に終始している。

 おかげで、仕事と立場と実績からは想像もつかないほど、彼は暇な身分だった。

 その暇な時間を、孝虎はカタギの友人に費やしている。

 友人との出会いは、あまり良いものではなかった。東大生である友人は、どうやら同期生の反感を買ってしまったらしく、学内で強姦されて身も心もずたぼろの状態であった。

 そんな彼が、赤門前に呆然と座り込んでいたところに、重厚感あるシーマが走ってきて、ふらふらとその車の前に飛び出して来た。その車が、孝虎の車だったのだ。

 放心状態にある彼を、本当にただの親切心から助けたのが、すべての始まりであった。

 あれから、三年。

 ヤクザな男とカタギの青年の仲は、日を追うごとに距離を縮めていた。

 静岡県は清水地区の生まれであるらしい春賀は、次郎長を人生のお手本としていることもあり、ヤクザという存在に暴力団以外のモノを見出しているらしく、初対面のときから、特に恐がったりすることはなかった。それは、孝虎の態度のせいもあったのだろう。立場を感じさせないほど、春賀の前にいる孝虎は歳相応の若者だったのだ。

 ともかく、孝虎の護衛として常に行動を共にしている中村から見て、二人の関係は昔から仲が良かった親友、というレベルのものであった。暴力にまみれた生活を送っている孝虎の、おそらくは唯一の、息を抜ける場所。

 それと同時に、中村は口に出しては言わないものの、孝虎の最近の悩みもうすうす感づいていた。

 孝虎は、青年、春賀を気の合う友人として扱おうとしている。実際、信じられないほど息がピッタリだ。だが、孝虎の本能は、春賀を性的な対象として見始めているのだ。

 いつもの孝虎であれば、そこで悩むことはなかっただろう。相手が男だろうが女だろうが、本能に従って口説き落とそうと躍起になるに違いない。

 しかし、相手が春賀となると、勝手が違う。そもそも、出会いが良くなかった。助けてくれた人までも、自分を実はそんな目で見ていたと知ったら、春賀はこれ以上ないほどに傷つくに違いない。わかるから、孝虎は自分の感情を春賀に知られないように押さえつけているのだ。

 そんな孝虎が、中村から見ると無性に不憫でならない。出会った状況があんなことでなければ、きっとお似合いなのに。





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