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 あの後、何をどうしていたのか、俺はこの賢い頭でも、実はさっぱり覚えていない。

 気がついたら、すっかり片付いた荷物の中に埋もれて、眠っていたらしい。薄いレースのカーテンの向こうは真っ暗で、部屋の中は煌々と蛍光灯に照らされていた。

 畳敷きの部屋で良かったと思う。

 けっこう無理な体勢で寝ていたわりには、どこかが痛むこともなく、普通に起きられる。

 時計を見れば、すでに夜の7時を過ぎていた。

 尿意を催して、台所へ出る途中で、赤い点滅を見つけた。それは、通学カバンの中に無造作に放られた、携帯電話だった。着信アリ、をしめす、ランプの光だ。

 あんまり見たくはなかったけれど、大学からの電話だったら困るので、折りたたまれた電話を開いてみた。

 未確認未通話の着信が、13件入っていた。全部、差出人は、孝虎だった。時間は、16時台が1件、17時台が2件、18時台が9件。ついさっきも、1件あったらしい。

 もしかして、目が覚めたのは、この最後の電話の音だったかもしれない。

 必死に取り繕っていた孝虎の声が、耳の奥に残っていた。

 愛してるって、そんな言葉、恋敵らしい女からの電話で言われたって、信じられるわけないじゃない。しょうがない人なんだから。

 そう、思えるくらいには、どうやら気持ちは落ち着いたらしい。頭の隅のほうが痛いのは、久しぶりに盛大に泣いたせいだったろうか。

 落ち着いたら、ようやく、ため息が出てきた。

 いつの間にか、俺の方こそ、孝虎にどっぷり惚れこんでたんだ。気がつかなかったけどね。何しろ、きっかけが孝虎に惚れられてほだされたってことだったから、自覚を持つのに機会がなくて。

 いつのまにか、孝虎の方は、俺以外の人にも目が行くようになったんだ。

 さすがに悔しいから、俺がその思い人の列から抜けてしまったとは思いたくない。バレンタイン前の週末も、その前のクリスマスも、全部俺のために使ってくれたから、席次で行けば上位に食い込めてると思う。

 でも、他にもいるのかも、って予測は、実はけっこう前からついていて。だから、ショックではあったけど、心のどこかで諦めがついてる。その他大勢の一人でも良いやって、そう思う。

 正直言うと、俺一人の孝虎でいて欲しいけどね。俺には子供が産めないんだから、どの道、仕方がないのさ。

 本当だったら、電話をこちらから掛けなおして、「ごめん、寝てた」って謝るべきなんだろう。

 でも、なんとなく、その気にはならなかった。

 携帯を再び通学カバンに放って、当初の目的どおり、トイレに入った。





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