20
孝虎に煽られて、自分の知らない快感のツボをいくつも暴き出されて、春賀はふと、快楽に酔いしれている自分に気付く。
喧嘩で鍛え上げられ、日々のトレーニングでその体型を維持している立派な身体が、春賀の男にしては華奢な身体を包み、支え、正気を失うほどの快楽を与えてくる。それが、素直に気持ちいいのだ。安心してしまうのだ。その身体を持つ人間の名が、「住吉孝虎」である、というだけで。
あんな経験をした直後なのに、この人になら、もっともっと先まで、そう、最後まで、して欲しいと思う。もっと欲しがって欲しいと思える。それが、不思議でもあるのだが。
「春賀。おいで」
呼ばれて、だが、孝虎は春賀を自分で起き上がらせようとはせず、膝と背中に腕を回して抱き上げ、浴槽から引き上げた。いつの間に敷いたのか、そこに敷かれたバスマットの上に春賀を下ろす。
突然愛撫の手を止められた春賀の身体は、そのことに戸惑ってしまって、自然に孝虎の手を追っていた。また、触って欲しい、と、火照った肌が訴える。
そこに座り込んでしまった春賀の身体に、何とも不思議な粘度を持った液体が降り注いできた。見上げれば、それは孝虎が持ってきていたボトルから流れてきているもので、それに、見た目は冷たそうなのに、温かい。
「さっき、風呂の中に入れて温めてたんだよ」
「……なに? それ」
「ローション」
答えを聞いて、それでも春賀はピンと来ないらしい。純粋培養のせいなのか、勉強にしか興味がなかったせいなのか。きょとん、とした表情の春賀に、孝虎は楽しそうに笑い、流したソレを春賀の肌に伸ばしていく。
「ぬるぬるして、気持ちいいだろ?」
「うん。……変な感じ。まだお湯の中にいるみたい」
ということは、変な感じ、は気持ち良い方の感じではあるらしい。良かった、と笑って、孝虎はその手を今まで弄っていた春賀の敏感な部分へと滑らせていく。
ぬるりとした手が春賀の身体を覆って、湯船の外なのに寒くなくて、春賀は孝虎に体重を預けて目を閉じる。快感が、春賀を襲う。それは、自分から襲われたい、と思わせる不思議な感覚で、身を委ねることに恐怖感がない。
だから、やがて、孝虎の指が覚えのある場所をまさぐり始めても、春賀は嫌そうな反応をまったく見せなかった。
その指は、ローションのぬめりを借りて、つるりとその狭いところに入っていく。
「痛くないか?」
「うん。平気」
気遣ってくれる孝虎に、春賀は嬉しそうに笑って返す。
本当に、痛くも怖くもないのだ。そこをどうされるのか、すでに知っている身体なのに。孝虎が始めたその行為を、春賀の身体は自然に受け入れている。
「怖くも、ない?」
「全然」
本当に、心配してくれているのだ。止めようか、と言ってくれた時と変わらず、今でも。
それが、こんなギリギリの状況で気遣ってくれることで、わかった。やっと。
だから、春賀は自分から、孝虎にキスを強請る。
「最後まで、して。孝虎」
貴方が欲しい。
孝虎の耳元に囁いたのは、こんな言葉。それが、孝虎の理性を吹っ飛ばしたのは、初心者の春賀にだってわかっていて。だが、なりふり構わず求めてくる孝虎の身体に、春賀は安心してしがみついた。
この人なら、自分を守ってくれる。そう、実感していたから。
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