成人記念日 1




 それはなんとも不思議な縁だった。

 元をたどれば、和樹の趣味だと説明がつく。
 部活動もしていない和樹は家に帰ると暇を持て余していて、深夜近くまでバイトで忙しい兄の帰りを待つ間の退屈な夜の時間を全て当てて、すべて紙で出来た姫路城を作り上げたのだ。
 しばらく室内に飾っていたのだが、畳四分の一ほどの大きさは少々嵩張って邪魔になっていた。とはいえ、せっかく作ったのに壊すのももったいない。

 どうしようかと困っていたところに遊びに来たのが春賀だ。
 元々は春賀の恋人であるクラブ『橘』のオーナーが所有していた物件であるこの部屋は、設備や家具も合わせて丸ごと一式を格安で譲り受けている。
 その代わりに、引越しきれていない小物類は預かっていたため、時々こうして遊びがてら引取りにやってくるわけだ。

 一目で気に入った春賀は、クラブの一角に飾らせて欲しいといってそれを買い取って行った。
 趣味で作ったものであるし和樹も出入りしている店に飾るのだからと代金は遠慮したのだが、材料費だけでも受け取って欲しいと春賀も譲らなかったのだ。

 結果、その姫路城はしばらくクラブ『橘』で置物の一つとして花を添えていた。

 この姫路城に目をつけたのがクラブのオーナーだった。
 彼が経営に参画している料亭にこの姫路城を置きたいと、和樹には料亭の格安利用権を引き換えに交渉し、その居場所は銀座のクラブから赤坂の料亭に移動する事になった。
 ヤクザの幹部や大物政治家から中小企業の社長まで幅広いニーズに応えるその料亭で、しかも玄関先の片隅に控えめなライティングで飾られた姫路城は、訪れる客の目を否応無く惹きつけた。

 一方で、和樹はオーナーの依頼で彼が経営するさまざまな飲食店で雰囲気にマッチする置物の製作をはじめていた。
 趣味の一環で良い、期限はない、材料費はオーナー持ち、好評を集めれば金一封、という好条件に、和樹が断る理由が無かった。
 いろいろな材質の紙を試行錯誤で切り貼り折りひねりして作成される作品は、豪華な花瓶から一輪挿し、タペストリーに数々の小物、有名な寺社のジオラマもどきに西洋の城郭、額縁に飾られるような絵画までさまざまだ。
 大物は数ヶ月かかるが、小物なら手遊び程度に数日で出来上がる。

 オーナーに姫路城を見初められたのが高校二年生のはじめ頃で、一年と半年の間に製作された作品は大小合わせて数十点に及ぶ。
 ほとんどの作品が高評価を受けていて、多くの作品を見るためにとわざわざ飲食店グループの各店舗を巡ってくれるファンもつくほどだった。

 この手ごたえに、オーナーは更なる野望を抱いた。
 場所は若者のメッカである原宿と渋谷を結ぶ明治通り沿いに、折り紙やペーパークラフトをメインテーマにしたカフェをオープンすることにしたのだ。
 しかも、抹茶を中心とした和風カフェと紅茶を中心としたイングリッシュカフェの二店舗同時オープン。

 さすがに高校生の和樹だけでは手に余り本職のデザイナに混じってのアルバイト作業にはなったが、全体的な雰囲気やペーパークラフト関係の設計までは和樹の意見が主に尊重されることになった。
 それはそもそもオーナーの意向なので本職デザイナのプライドを刺激することも無く、和樹自身が控えめで年上の人を立てる性格をしているのでかえって可愛がられたくらいだった。

 カフェはオーナーの予測を上回る人気を博し、雑誌にも取り上げられる有名店へとあっという間に押し上げられた。
 和樹本人の控えめな性格と高校生である立場を考えて店ではデザイナの素性の一切を隠し通したため、かえって謎のインテリアデザイナという話題性を作り出してしまったのだが、和樹のプライベートはきっちり守られていた。

 一緒に仕事をしたデザイン事務所から高校卒業後に一緒に働かないかと誘いがあったのは、至極当然の成り行きだっただろう。

 高校を卒業した十九歳の春。和樹はインテリアデザイナ見習いとして社会人の第一歩を踏み出していた。





[ 49/55 ]

[*prev] [next#]

[mokuji]

[しおりを挟む]


戻る



Copyright(C) 2004-2017 KYMDREAM All Rights Reserved
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -