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身体についた湯水を拭わないまま、智紀は和樹を掛け布団を蹴落としたベッドに下ろすと、脱衣所に戻って大判のタオルを一枚手に取る。
ついでに足拭きマットをひっくり返して歩いた後を追いかけ、流した水をふき取りながら、ベッドルームへ戻っていく。
タオルを広げて和樹を包み、自分も上に乗ってじゃれ始める。初めて身体をつなげてから、丸1年が経っている。和樹の性感帯なら、身体の隅々まで把握済みだ。和樹がこれに抗えるはずがない。
「あふっ」
腋の下や腰骨の上あたりが、実は身体中で一番反応がいい。ここを弄ってやると、身体中の力があっさりと抜けていく。そして、若い身体が素直に快感だけを追いかけていく。
肉体年齢も、実年齢と同じく、10歳は離れているから、本気で和樹に求められると、智紀が先に音を上げることも、実は過去に何度もあった。
それを謝ると、和樹は少しだけ寂しそうに、反対に謝ってくれる。
それには、疲れも関係している、と和樹はいつの間にか学習したらしく、自分が欲しがるときは智紀の疲れ具合をまず聞くようになった。
それが、誘っている言葉だと変換される智紀の脳は、結構腐っているかもしれない。
「あっ。やだ、兄ちゃん。意地悪」
「智紀」
「ひゃあっ、あっ、あんっ」
「ほら、言ってごらん。智紀って」
「あぁっ、いやぁっ。兄ちゃん、ダメぇ」
気持ち良いところを、わかっていて重点的にイジメながら、呼び方を変えさせようとする。
和樹に甘い声で「兄ちゃん」と呼ばれるのも嬉しいが、そろそろ兄弟の枷から脱却したい。智紀は、和樹を弟としてではなく恋人として愛しているのだから。
「ねぇ、呼んで。智紀って」
「んんっ、あふぅっ」
「呼ばないと、この先してあげないよ」
「やっ! やだ、兄ちゃん、やめちゃダメ」
「だったら、呼んで。俺を」
「と、ともっ」
「ん?」
「ともきっ! お願い、智紀ぃ。もっとぉっ! あああぁぁっ」
智紀が触るところはすべて性感帯だとばかりに、和樹が身悶える。
その中でも最も快感点の密集している場所を、ご褒美に撫で上げてやると、悲鳴に近い嬌声とともに歓喜の涙をこぼした。
「つらい?」
「気持ち、イイっ」
ひくひくっと身体が震えるのを抑えてやって、智紀は愛撫の手をさらに加速する。
とくに決定打となるような場所は弄っていないのに、堪えきれないようだ。
「良いんだよ、何度でもイッて」
「いやっ」
「強情っぱり」
そこが好きなんだけどね、とは、智紀だけの秘密だ。
若い身体は欲望に正直で、その分だけ堪え性がない。そこを利用してやらないと、もう20代も後半の智紀では、若い和樹の欲望についていけない。
それに、好きだから、望むだけの快感をその身体に与えてやりたい。
「愛してるよ。和樹」
「智紀っ、大好きっ」
答えてくれたのか、口をついただけなのか、智紀の身体にしがみついて、和樹はそう叫んだ。性の吐露と同時に。
翌日。
さすがにフラフラの和樹に、どうやら問題はすっかり解決したらしいと見た隆久は、にんまりと笑った。
「今日は体育がなくて良かったな、カズ」
「もう。タカくん、意地悪」
ぷっと膨れてみせる和樹の頬を、隆久は楽しそうにペチンと叩いて潰した。昨夜見た恋人たちの真似をして。
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