8




 身体についた湯水を拭わないまま、智紀は和樹を掛け布団を蹴落としたベッドに下ろすと、脱衣所に戻って大判のタオルを一枚手に取る。
 ついでに足拭きマットをひっくり返して歩いた後を追いかけ、流した水をふき取りながら、ベッドルームへ戻っていく。

 タオルを広げて和樹を包み、自分も上に乗ってじゃれ始める。初めて身体をつなげてから、丸1年が経っている。和樹の性感帯なら、身体の隅々まで把握済みだ。和樹がこれに抗えるはずがない。

「あふっ」

 腋の下や腰骨の上あたりが、実は身体中で一番反応がいい。ここを弄ってやると、身体中の力があっさりと抜けていく。そして、若い身体が素直に快感だけを追いかけていく。

 肉体年齢も、実年齢と同じく、10歳は離れているから、本気で和樹に求められると、智紀が先に音を上げることも、実は過去に何度もあった。
 それを謝ると、和樹は少しだけ寂しそうに、反対に謝ってくれる。
 それには、疲れも関係している、と和樹はいつの間にか学習したらしく、自分が欲しがるときは智紀の疲れ具合をまず聞くようになった。
 それが、誘っている言葉だと変換される智紀の脳は、結構腐っているかもしれない。

「あっ。やだ、兄ちゃん。意地悪」

「智紀」

「ひゃあっ、あっ、あんっ」

「ほら、言ってごらん。智紀って」

「あぁっ、いやぁっ。兄ちゃん、ダメぇ」

 気持ち良いところを、わかっていて重点的にイジメながら、呼び方を変えさせようとする。
 和樹に甘い声で「兄ちゃん」と呼ばれるのも嬉しいが、そろそろ兄弟の枷から脱却したい。智紀は、和樹を弟としてではなく恋人として愛しているのだから。

「ねぇ、呼んで。智紀って」

「んんっ、あふぅっ」

「呼ばないと、この先してあげないよ」

「やっ! やだ、兄ちゃん、やめちゃダメ」

「だったら、呼んで。俺を」

「と、ともっ」

「ん?」

「ともきっ! お願い、智紀ぃ。もっとぉっ! あああぁぁっ」

 智紀が触るところはすべて性感帯だとばかりに、和樹が身悶える。
 その中でも最も快感点の密集している場所を、ご褒美に撫で上げてやると、悲鳴に近い嬌声とともに歓喜の涙をこぼした。

「つらい?」

「気持ち、イイっ」

 ひくひくっと身体が震えるのを抑えてやって、智紀は愛撫の手をさらに加速する。
 とくに決定打となるような場所は弄っていないのに、堪えきれないようだ。

「良いんだよ、何度でもイッて」

「いやっ」

「強情っぱり」

 そこが好きなんだけどね、とは、智紀だけの秘密だ。
 若い身体は欲望に正直で、その分だけ堪え性がない。そこを利用してやらないと、もう20代も後半の智紀では、若い和樹の欲望についていけない。
 それに、好きだから、望むだけの快感をその身体に与えてやりたい。

「愛してるよ。和樹」

「智紀っ、大好きっ」

 答えてくれたのか、口をついただけなのか、智紀の身体にしがみついて、和樹はそう叫んだ。性の吐露と同時に。




 翌日。

 さすがにフラフラの和樹に、どうやら問題はすっかり解決したらしいと見た隆久は、にんまりと笑った。

「今日は体育がなくて良かったな、カズ」

「もう。タカくん、意地悪」

 ぷっと膨れてみせる和樹の頬を、隆久は楽しそうにペチンと叩いて潰した。昨夜見た恋人たちの真似をして。





[ 48/55 ]

[*prev] [next#]

[mokuji]

[しおりを挟む]


戻る



Copyright(C) 2004-2017 KYMDREAM All Rights Reserved
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -