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その後、仕事が残っている智紀のかわりに、おたまと呼ばれている彼女とその彼氏が、和樹と隆久を家まで送り届けてくれた。
銀座の駅までで良いと遠慮したのだが、時間が遅いから危ない、と彼女に押し切られた格好だ。なるほど、姐御肌といわれた意味がわかる。それは普通、男が女の子を守るためにする仕事だろう。
智紀は、和樹の存在や学業などを考慮して、毎晩早番にシフトされている。夜の11時には家に戻ってきた。
「ねぇ、兄ちゃん」
「ん?」
たまに甘えん坊気質を発揮する和樹にねだられて一緒に風呂に入って、和樹を背中から抱く形で湯船につかると、和樹が声をかけてきた。
「本当に、ぼくで良いの?」
「……ん? 何が?」
「恋人。本当に、ずっとぼくで良いの? ぼく、子供も産めないし、ずっと年下だし、ちょっとしたことでダメになっちゃうし……」
俯いて、少し寂しそうに、不安そうに、そんな風に問いかけてくる和樹を、智紀は背後からぎゅっと抱きしめた。
「和樹以外にはいらないよ、俺は。それこそ、反対に俺が聞きたいくらいだ。和樹は、俺についてきて、本当に後悔しないのかって」
「そんなことっ」
「ないだろ? だから、聞かない。それは、和樹の態度を見ていればわかるからな。それに、俺以外のヤツを見てる余裕なんて、和樹に与える気はないよ。一生、俺に縛り付けておく。和樹が嫌がってもね」
「……何だろう。すごい、嬉しい」
そんな、普通なら恐がるくらいの、剥き出しの独占欲が、何故だかわからないけれど、嬉しいらしい。
自分を抱きしめてくれる腕を握って、くすくすと嬉しそうに笑い出す。そんな和樹の首筋に、智紀は小さくキスを落とす。
「俺の独占欲は、このくらい強い。だから、和樹が不安を感じることはないんだよ。
不安なのは、俺の方だ。和樹はまだ、思春期真っ只中で、これからいくらでも、好きになりそうな相手が現れる。そんな相手に、俺なんかで対抗できるのか、正直言って自信がないよ」
そんなこと、と呟いて、和樹は兄を振り返る。
そして、気づくのだ。自分が不安に思っていたことを、この兄も同じように不安に思ってくれていることに。しかも、それが嬉しいことに。
「ぼく、喜んでもいいのかな?」
「ん?」
「自信なくすくらい兄ちゃんがぼくを想ってくれてること。喜んでもいい?」
「悪趣味だなぁ」
「だって、嬉しい」
くすくす、と、今度はちゃんと声も出して、笑う。そして、兄に自分から抱きつく。
「兄ちゃん。疲れてる?」
「明日も学校だろ?」
「若いから平気だもん」
「お、言ったな?」
後悔させてやる。そんな物騒な台詞を吐いて、和樹を貼り付けたまま、ざばぁっと水音を立てて立ち上がる。
そして、和樹をおろしてやらないまま、ベッドルームへ直行していく。それを、和樹もまた、さっぱり抵抗せずに受け入れていた。
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