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智紀がバイト先である銀座のゲイバー、『橘』のバーテンダーを無期限休業して一ヶ月後。
そこには再び智紀の姿があった。
一ヵ月前と比べて、特に目に見えて変わったところもない。
住んでいるところは、相変わらずママの持ち物であるマンションで、昼は病院のボランティア、夜はバーテンダーとして、毎日忙しく働いている。
変わったというよりは、一つだけ、習慣が増えた。
毎週土日には、せっかくの休日にも関わらず、必ず朝早くから起きだして、結局自分のものになったプジョーに乗って出かけ、昼前には、兄弟のように良く似た少年を連れて部屋に戻ってくるのだ。
そして、夕飯時になると再び二人で出かけていき、夜中に一人で帰ってくる。
毎週毎週、欠かすことなく繰り返される、習慣だ。
後に、その少年を紹介された彼の親友、はるかは、少年について、今まで会った中でも指折りの、とびっきりの美少年であり、まるで太陽のように明るく闊達な子だ、との評価を下した。
彼の過去を話に聞いて知っているからこそ、信じられないくらいだ、と。
翌年の春には、はるかから正当な金額交渉のもとに譲り渡されたそのマンションに、高校に進学した和樹も転がり込んでくることになるのだが、それはまだ、もう少し未来の話である。
おわり
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