31
自分に覆いかぶさる相手を見上げて、和樹は幸せそうに微笑んだ。
二人が着ていた衣服は、ベッドの下に投げ捨てられている。
ベッドに掛けられていた掛け布団も、丸まって落ちていた。
裸でいても寒くないその気温は、締め切った部屋の中でも暑くもなくて、外気温がまったく気にならない。
生まれたままの姿を互いに晒しあって、相手も自分と同じ男であることを否応なく見せ付けるその象徴が、何故か無性にいとおしい。
腰を押し付けて触れ合わせるだけで、快感が背筋を駆け上ってくる。目を細めて幸せなため息をつくと、智紀が嬉しそうに笑った。
「気持ち良いのか?」
からかうような口調に、拗ねたように口を尖らせる。
「……兄ちゃんは?」
「めちゃくちゃ、幸せ」
まったく照れた様子もなく、正直に気持ちを告げる。
そして、和樹にのしかかるように身体を倒すと、上から和樹を抱きしめた。
身体がすべて触れているのに重くないのは、智紀が気を遣ってくれているからだ。
「乗っかっても、大丈夫だよ?」
あまり気を遣って欲しくなくてそう言う。智紀は、そんな和樹にくすっと笑って答えた。
「重いぞ?」
「平気」
そうかな。囁いて、少し体重を預けてくる。
和樹がその首に腕を巻きつけ引き寄せると、寄せられるに任せてキスをされた。
恋人同士のキスの仕方も覚えた和樹は、ためらうことなく舌を絡ませる。
今まで離れていた分を取り戻すかのように、もっと深くキスを求める和樹に応えて、同時に腰を振る。
ピッタリ合わせられたそれが、動きに合わせて絡み付いては解かれて、そのたびに快感を生んでいく。
こすり合わせているだけなのに、感じすぎるくらいに感じてしまって、なんだか恥ずかしい。
でも、だからといって、気持ち良いことを隠すような真似はしなかった。
お互いに、快感にゆがむ顔を晒して、それが更なる快感を産むことを知っているからだ。
快感を追いかけているうちに、どんどんそれは強くなり、さらに腰の動きも激しさを増していく。
もどかしそうに和樹も自分から腰を動かす。
「はあっ」
ずっと堪えていた声が、もう限界だと訴える。
思わずあげたため息のような和樹の声に、智紀のそれはびくっと反応した。より快感を求めて、勝手に暴れだす。
智紀の動きに促されて、和樹もまた、喉を震わせる。
「あぁん」
「ダメだよ、和樹。下に聞こえる」
状況を無視するような冷静な声が、何故か和樹にはよりいっそうの快感を促す声にしか聞こえなかった。
無理、と訴えるように、首を振る。
「あっ。ダメ。声、出ちゃうっ」
「聞かれても良いの?」
「良いのっ。イイっ。はぁんっ」
半分快楽で麻痺しかけている頭で、開き直ったように答えて、堪えられないように声を上げる。
「じゃあ、俺も、殴られるくらいの覚悟は、しなくちゃね」
和樹に誘われて、誘いを受けた時点で、すでに覚悟はついていたことを、もう一度確かめる。
そんなことはさせない、というように、和樹は智紀を強く抱き寄せた。
「あんっ。兄ちゃんっ。イイよぉ。イっちゃうぅっ」
「良いよ。イって。俺も、もう限界っ」
お互いにお互いを抱きしめて、相手を追い立てるように、自分を追い立てるように、腰を動かす。
和樹が先に、ぎゅっと目をつぶった。一瞬遅れて、智紀が和樹をより強く抱きしめる。
「ああっ」
「かずきっ」
同時に、荒くなっていた息遣いが止まった。
同時に、時が止まった。
その間、わずか数秒の時。
今までずっと、長い間求め続けていた、至福の時。
まるで、永遠にも感じていた。
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