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 引きちぎられて使い物にならなくなった服を、苦労して身体からはがしながら、和樹はベッドに腰を下ろす兄を見下ろした。
 和樹が脱いで返したシャツに袖を通しながら、智紀がその視線に気づく。

「どうした?」

「ん。あのね、一つ聞いても良い?」

 何だ?と、聞き返す。
 やっとしゃべれるようになった、その和樹が聞きたいというなら、その問いには答えてやりたいと思う。
 それに、和樹は本当に不思議そうな表情をしていた。

「今日会った人、ぼくにいたずらした人の仲間だって言い当てたでしょ? どうして?」

 疑問を聞いて、智紀は返答に詰まった。う、と呻いたまま、しばらく固まってしまう。
 それから、自分の頭をガシガシと掻いた。

「あんまり、和樹には知られたくないんだよなぁ。あの頃のことは」

「不良だった、って?」

 そう。肯定して頷いて、それから、深いため息をつく。
 それだけで、和樹が納得してくれるとも思えないし、せっかくしゃべれるようになった和樹とは、もっとおしゃべりがしたいのだ。となれば、答えないわけにはいかない。

「簡単なんだ。昔の自分がそうだったから、あいつらの行動なんてすぐ読めるからね。
 ほら、その服。びりびりに破られてるだろ?
 それが、普通のリンチなら絶対にないことなんだよ。
 大人とかおまわりさんとかに踏み込まれたら、言い訳できないだろ。だから、大抵は、外見からは見えないようなところを殴ったり蹴ったりするもんだ。
 それに、そもそも、和樹は確かに美人じゃあるけど、女には見えないよ。女として扱われたことのある、その現場を見ていない限り、和樹を見て、女みたいな、なんてセリフは出てこない。
 それから、和樹に手を出してたのは、あの男一人だったからね。他の奴らはただ見てただけだろ?
 だから、結果的に、あいつが現場に居合わせてた、って想像がつくわけだ」

「すごい。そんなに、考えてたんだ。あんな一瞬で」

「いや、半分は、勘」

 目を丸くして、感心したように和樹が驚いて見せるので、智紀は照れて真相を明かした。
 半分どころか、ほとんど勘だ。その勘が働いた理由を突き詰めると、説明した内容になる。そういうことである。

 ようやっとぼろぼろの衣服を脱ぎ捨てて、タンスから新しい服を取り出し、身につけると、和樹は智紀の隣に腰を下ろした。
 抱き寄せられるのに従って、兄の肩に頭を乗せる。
 それだけのことが幸せに感じて、和樹は微笑んだ。そのまま、そっと目を閉じる。





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