26
しばらく行って、路地を入った先の今は耕されていない荒れた畑に、高校生くらいの年の少年たちが固まって中央を覗き見ている、異様な光景に行き当たった。
近づくにつれ、それが誰かを集団で虐めている様子であることに気づく。
そして、虐められている人の泣き声が聞こえてきた。
それは、とても聞きなれた声だった。
「かずきっ」
急いで走りより、狭い道を塞ぐように車を止めて、智紀はそれから飛び降りた。
「てめぇらっ。うちの弟に何してやがるっ」
これ以上は出ないほどの大声で、智紀は叫んだ。
転がるように走り寄ってくる大人の男に、少年たちは少し驚いたらしい。はっとこちらを振り返った。
だが、その相手が一人だとわかると、途端に強気に出る。
少年たちは全部で八人。大人が一人でかかっては、たとえ武術の心得のある人間であっても、そう簡単には敵わない。
声をかけられたことで攻撃の手が止まり、中央で自分の身体を抱えて震えている和樹が見えた。
着ている服が、見るも無残に破り取られていて、申し訳程度に身体を覆っている。
「っんだぁ? てめぇ」
おそらく、その少年がリーダー格なのだろう。輪の中心から仲間を掻き分けて出てくると、智紀に向かってガンを飛ばす。
その仕草は慣れたもので、おそらく近所でも有名な不良集団の一人なのだろう。
普通の大人であれば、それだけで腰が引けてしまう。
だが、智紀は普通の大人ではなかった。
「開き直ってんじゃねぇ。その子を離せ。俺の弟だ」
「へぇ。この女みたいなガキが、弟だってか? 似てねぇな。そうは見えねぇよ。関係ねぇ奴は消えな」
捨て台詞を吐いて、智紀に向かってつばを吐き、興味を失ったように背中を向ける。
そんな不良少年の態度に、智紀は自分の中で何かが弾けとんだのを自覚した。
少年が、再び和樹の服に手をかける。が、それを引きずりあげる前に、智紀の蹴りが少年の腹に命中した。
軽く助走をつけて、何の躊躇もなく叩きつけられた蹴りに、少年の身体が吹っ飛ぶ。
「俺の和樹に手を出すな」
智紀の目は、完全に据わっていた。それを見上げた和樹までもが恐がってしまうほどに。
途端、その場は智紀の独断場と化した。
リーダーを吹っ飛ばされて自棄になった仲間の少年たちが次々と繰り出すパンチを、和樹をかばいながら難無くかわし、殴り飛ばし、蹴散らす。
気がついたときには、半数がその場を逃げ出し、半数がその場に倒れこんでいた。
すべて片付けて、智紀は最初に蹴り飛ばした少年の胸倉を掴み、無理やり起こす。
「おい。てめぇは、和樹を最初に強姦したグループの仲間だな」
「お、俺はやってねぇよ。見てただけだっ……ぐおっ」
おびえた目で答えた途端に、蹴られた同じ場所を殴られ、胃液を吐く。
智紀にその手を離してもらえないまま、苦そうに顔をしかめた。
そんな表情を見て、少しはすっきりしたのだろう。ぽいっと少年を投げ捨てる。
「だったら、やった奴に伝えておけ。命が惜しかったら、俺の前に姿を見せるんじゃねぇってな」
こくこくこく。
首振り人形のごとく頷き続ける少年を一瞥し、智紀は自分の周りを改めて見回して、軽く肩をすくめた。
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