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 電話を切って、居間に戻ってきて、智紀は首を傾げることになった。

 そこに、和樹の姿がなかった。色紙の入った袋は空になっていて、作り終えた親子亀が本の上に行儀良く乗せられている。

 席を立っていた時間はほんの十分ほどだ。その隙に、一体どこへ行ってしまったものやら。

 家の中を探し回って、それでもその姿を発見できず、玄関にも靴が見当たらない。

 外へ出て、玄関前を見渡し、裏の畑に回った。

 畑では、祖母が大きくなったキャベツの葉についた虫を、丹念に取り除いていた。

「祖母ちゃん。和樹、見なかった?」

「見てないよ。何だい? トイレにでも行ったんじゃないのかい?」

 声をかけられて立ち上がり、ついでに伸びをする。そんなのんきな返事をする祖母に、智紀は急に不安を掻きたてられた。
 トイレも風呂場も誰もいないはずの納戸も探したのだ。それに、靴がなくなっているのは、外へ出た証拠だ。

 まさか、どこかへ出かけたのか。

 不安になったら、居てもたってもいられなくなった。

「祖母ちゃん。俺、探してくる。和樹が戻ってきたら携帯に電話頂戴」

 言い置いて、慌てて家の中へ戻り、どたばたと足音を立てて、また外へ飛び出してくる。
 車の鍵をワンタッチで開けて、エンジンをかけた途端にアクセルを踏んだ。

 大慌てで飛び出していく孫に、緊急事態を察知した祖母は、畑仕事をそのままに家の中へ戻ると、もしかしたらまだ家の中にいるかもしれないというかすかな希望を持って、探し始めた。

 正直、弟の回復スピードを甘く見ていたと、智紀は反省する。
 まさか、自分から外へ出かけるとは思っていなかったので、出かける時は声をかけろ、とか、一人で出かけてはいけない、とかいう注意を、まだ一度も話して聞かせていなかったのだ。

 声で反応を返すようになって、本人もおそらくは、自分の回復に少しは浮かれているのだろう。
 だからこそ、もっともっと自分を回復させたくて、いろいろ挑戦してしまうのだ。
 そんな精神活動が、智紀には読めていたはずなのに。うっかり失念していた。これは、間違いなく、智紀のミスである。

 家を出て、迷わず街の方へ車を走らせる。脳裏に浮かんだのは、空になっていた色紙の袋だ。
 もしかしたら、文具屋へ出かけたのかもしれない。それは、歩いて十分ほどで行ける距離にあるのだ。

 文具屋へ続く道を、智紀は弟の影を探しながらゆっくりと車を走らせた。
 旧街道沿いで、だがこのあたりはずっと田舎道なせいもあって、大きな家や人気のない畑や、雑木林などもある道だ。
 ふらりと迷い込んでしまったら、簡単には見つけられない。





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