19




 和樹と共に行動するようになって、一週間が経っていた。

 週に一回だけやってくる西野少年には会えなかったものの、他の入院患者や通院患者とも少しずつ仲良くなり、和樹の周りには人が増えていく。
 本人が頑張っているせいもあるのだろうが、基本的に和樹は人気者体質だ。
 人当たりが良く、聞き上手で、面倒見も良い。和樹をいじめる人間さえいなければ、何の問題もないはずなのだ。

 病院内である、という環境と、周りに身を守ってくれる人がたくさんいる、という状況が、和樹の心を落ち着かせているのだろう。
 水曜日も金曜日も、気を遣わなくて済む仲間に囲まれて、一日を楽しく過ごし、帰るときには上機嫌だ。

 どこへも出かけなかった木曜日も、和樹は智紀を相手に、楽しそうに折り紙に熱中していた。
 本当に気に入ったらしい。より難しいものに、どんどん挑戦していく。その上達の早さには、智紀すらついていけなかった。

 そして、先週は法事があった、土曜日。

 家族全員が家に揃う。両親の仕事も週休二日制で、土日は休みだ。

 朝食前にはヒマワリの世話をして、食後に家中に掃除機をかけ、祖母を手伝って洗濯物を干し、十時には手が空く。

 暇になって、また折り紙をはじめた和樹は、階段を下りてくる兄の手元からチャリチャリと音がするのを聞きつけて、駆け寄ってきた。

「ドライブに行こう、和樹。折り紙を片付けておいで」

「うん」

 はじめて声を出してからすでに三日が過ぎた。
 智紀に指導されて、少しずつだが返事を声で返すようになっている。
 今のところ、和樹が使える言葉は、うん、はい、違う、いや、だめ、わかんない、の六つだけだが、首を振るだけだった頃よりはずっと話がしやすくなった。

 いつも、折り紙は居間の大きな座卓でするので、本も紙も床の間の棚の上が定位置だ。
 テレビやテレビ台、床の間、食器棚など、ここ数日で大量に発生している和樹の作品が所狭しと並べられていた。新しくなるほど、複雑に小さくなっていく。

 片づけをして玄関を出ると、兄が車をそこに横付けにしていた。
 母が玄関前に並べているプランターに水をやっていて、和樹が出かける格好で出てきたのに驚く。

「ちょっと、智紀。和樹を連れて、今度はどこに行くの」

「さぁ、どこに行こうか。和樹、どこ行きたい?」

 運転席のウインドウから顔を出して、家から出てきた弟に声を掛ける。スニーカーを引っ掛けてきた和樹は、靴をちゃんと履きながら、その問いかけに首を傾げて返した。

「この時間からだと、近場しか行けないから。そうだな。大岳の鍾乳洞あたりまで行くか」

 昔は、両親によく連れて行ってもらった場所だ。適度に閑散としていて、和樹にも丁度良い。
 その場所は、和樹も覚えがあるのだろう。少し考えて、それからこくんと頷いた。
 丁度和樹の後ろから出てきた祖母に気づき、智紀は祖母にも声を掛ける。

「祖母ちゃんも行く?」

「良いよ、わたしは。二人で行っといで」

 行き先は、聞こえていたのだろう。和樹の身なりを直してやって、その背をぽんと押す。
 それから、ふと何かに気づいたらしい。待っていろ、と言って家の中に入っていく。

 和樹が車に乗ってしばらく待つと、祖母は手に二枚の上着を抱えて戻ってきた。

「鍾乳洞の中は寒いからね。持ってお行き」

 そう言って渡されたのは、丁度この時期に合う、薄手のジャンバーだ。ありがたく受け取り、後部座席に放る。

「行ってきます」

「夕飯に間に合わなくても気にしなくて良いからね。ゆっくりドライブしておいで」

「了解」

 この一週間でめざましいほどの成長を見せた和樹に、祖母は智紀を信用することにしたのだろう。
 全く心配していない様子で、智紀には大変ありがたい申し出をして、祖母は彼らを平然と送り出す。
 家の敷地を出て車が見えなくなるまで見送って、祖母は嫁を振り返り、肩をすくめて見せるのだった。





[ 19/55 ]

[*prev] [next#]

[mokuji]

[しおりを挟む]


戻る



Copyright(C) 2004-2017 KYMDREAM All Rights Reserved
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -