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 愛しい人に抱かれる快感に酔いしれ、痛いほどの快楽に身を捩り、いかせてもらえないもどかしさに泣いて懇願し、文字通り精も根も尽き果てて倒れるように布団に沈む。

 労うように頭を撫でられて、そもそもそこまで疲れさせた原因が彼だというのに、嬉しくて側に寄り添う。甘えたいだけ甘える。生前には恥ずかしくて出来なかったことでも、今なら問題は無い。

 そうして腕枕に身を任せていると、土方がその比較的低い声で話しかけてきた。

『なぁ、総』

「……ん?」

 実は、返事をするのも億劫だったりする。夢のはずなのに、現実と同じように疲れ果てていた。そのまま眠ってしまいたい。

『新八に、言っていただろう? 藤田、とかいったか。麻布の警察にいるという』

「あぁ、えぇ。斎藤さんがどうかしました?」

『……斎藤? というと、あの、斎藤か?』

「あれ? 歳さん、知らなかったんですか?」

 そっか、知らなかったんだ。そう、改めて確認するように言うすばるに、土方は拗ねるようにそっぽを向いて見せた。その似合わない子供らしい仕草に、すばるは笑ってしまう。

「あの横浜の一件以来、藤堂さんの維新時の旧交が復活しましてね、最近は茶飲み友だちも増えたみたいですよ。その辺の伝から聞かされてたんです、麻布の警察にいる警部が、どうやらそうらしいって。まだお会いして無いんですけどね」

『藤堂殿か、情報源は』

 なるほど、と頷いたのは、納得を示すため。嫉妬してくれても良いほど、弘一郎とは並ならぬ仲になっているすばるだが、それがどんな関係なのかを理解している土方は、どうやらやきもちすら焼いてくれないらしい。自分に止めを刺した男だというのに、あっけらかんとしているところが不思議なほどだ。

『しかし、なるほどそれは意外な相手だ。総は会いに行かないのか? 昔はお前が一番仲が良かっただろう?』

「良いんですよ、何か機会があったときで。死んだはずの身の上ですし、もうお互いに過去の話ですから」

 今は、あくまで藤堂すばるとして生きている。過去に捕らわれるのは、この夢の中だけで良い。恋人のいる、ここだけで。

「どうせ生きていくなら、あの時生まれ変わったつもりで、新しい人生を生きようと思うんですよ。幸い、今は穏やかに日々を過ごしていられますから」

『体調は、良くないのだろう?』

「ふふ。元々異常なほどの健康体ですよ。意外にしぶといんです」

『何を言うかと思えば。隊内一の病弱男が』

 新撰組を組織して解散するまでの間の半分は病に侵されていた男の言う台詞では無い。もともとそれ以前からの知り合いである土方はもちろん、その根拠が結核を患う前の実績から言われたものであることは確かめるまでもなく承知しているけれど。

『長生きしてくれよ。俺の分まで』

「ホント、歳さんって酷い男」

 早くあなたの元へ行きたいと願っているのに、生きて欲しいだなんて。恋人の願いを無碍にできる人間ではないのに。

 それでも色っぽく詰るだけで目元を和らげ、すばるはまた土方の胸に擦り寄って、そっと目を閉じた。この一時が至福の時。死ぬ予定が生き永らえてしまった、蛇足の人生における唯一の安らぎだから。

「死ぬまで、側にいてくださいね」

 あなたと同じところに行きたいのだから。迎えに来てくれなくちゃ、嫌ですよ、と。

 自ら死を選ぶことを、生を手放すことを、諦めざるを得なかったすばるの、唯一つの願い。それを胸に収め、土方はただ頷いて返すのみだった。

 意識が遠のいていく。夢の時間はもうすぐ終わる。

 また、夜を待ち望む長い一日が始まるのだ。





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