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 夕方。

 降り続いた雨が嘘のように空は晴れ、西の空に真っ赤な夕日が姿を見せた。富士山の影がくっきりと地平線上に浮かび上がっている。東の空には雨雲の名残が浮かんでいて、不気味なほどの赤一色に染められている。

 見上げれば、浅草の新名所、浅草十二階の姿がそびえ立っていた。

「では、私はこれで」

「折があれば、また顔を見せてください。私はずっとここにいますから」

 見送りに出たすばるは、和傘片手に頭を下げる杉村にそう声をかけ、左手は右の袖を押さえて、右手を振った。少し歩いて振り返り、杉村はもう一度頭を下げて、そこを立ち去っていく。

 すばるの隣に立つ弘一郎は、姿が角の向こうに消えるまで見送って、すばるを見下ろした。

「しかし、思わぬ来訪者だったな」

「なんか、年甲斐もなくはしゃいじゃいましたね。来週、勝先生のお宅にお邪魔したら、恨み言言っておかなくちゃ」

「恨み言か?」

「あの人に、素直に感謝なんて言っちゃいけません」

「どんな恩人だよ」

 断言するすばるに、弘一郎はいつもの通り突っ込んで、楽しそうに笑った。





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