伍の5
伊藤の魔術によって身体の自由を奪われていた男たちは、すばるが軽く身体を揺さぶると、すぐに目を覚ました。
術者の死亡によるものか、術をかけてからの時間経過のおかげか、すでに解けかかっていたらしい。
目を覚ましたときのすばると同様、全員が乾いた目の痛みにのたうち回ったが、すばるはそんな彼らの姿をけらけらと笑って見ていた。
自分が経験しているから、その痛みもわかるし、そのおかしさもわかってしまうせいらしい。それにしても、少々性が悪い。
目の痛みから何とか脱した弘一郎は、すぐに、唯一術にはまっていなかったすばるに、確認の視線を向けた。
「伊藤はどうした?」
「隣です。今頃、過去に自分が手にかけた人たちに嬲り殺しの目にあってるんじゃないですか?」
「もう死んでるんだろ?」
「そう。もう死んでるから、際限なく嬲り殺されるんですよ。ちなみに、私たちも、あの世へ行けば同じ立場でしょうね」
「……遠慮したいな」
「無理でしょ。人斬り、なんて不名誉な異名をもらうほどには、人を殺してますから」
「そういう時代だったんだ、なんて言っても、殺された奴らには通用しないんだろうな」
なんにせよ、この二人が二人とも、隣の部屋で抜け殻になっているその人物と同じ、罪人だ。
理由は何であったにせよ、やったことはほぼ同じ。
逃れることなどできはしないのだ。
その後にどんな善行を行っていたとしても、罪が消えるわけではないのだから。
「さ、帰りましょう。こんな辛気臭いところに、長居は無用です」
死後の話など、まだまだしばらく生きていく彼らには、先の話だ。
どうせ定まった未来なら、いまさらくよくよ悩んでも仕方がない。
今のうちに、自由を謳歌しておくに限る。
「……沖田?」
「はい?」
すばるの言葉に何が引っかかったのか、弘一郎は背を向けて歩き出したすばるに、そう声をかける。
が、振り返ったすばるの表情を見て、軽く肩をすくめると、首を振った。
「いや、なんでもない」
きっと、すばるの心に起こった何がしかの変化を感じ取ったのだろうが。
その疑問は胸にしまって、先に戻りかけたすばるを追いかけた。
「八十助、坂本殿。帰ろう」
「は、はいっ」
先に歩き始めているすばると弘一郎を追って、八十助もまた走って追いつき、その後ろを正己がゆっくり追いかける。
後に残されるのは、呆然とその場に座り込む、腰縄につながれて身の自由が利かないでっぷりした身体の男が一人と、血の匂いを部屋中に漂わせている二つの遺体だけだった。
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