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 夕飯を食べながら、私はメグの同居人たちの紹介を受けた。彼氏さんは銀行員の岳志さん、ワンちゃんがケン坊で、猫ちゃんがミー。

 寝室には、元は岳志さんの部屋だという、お隣さんの寝室を貸してくださるんだって。なんでも、普段はペットたちの寝室になっているんだとか。

 まぁ、贅沢だこと。

 お隣へは、ベランダから移動。スノコが敷いてあって、内側は普通の窓の鍵、外側は防犯用の普通は内側につけるサン付けの鍵が上と下に二つ付けられている。まぁ、地上5階じゃ、窓から泥棒が侵入することはまず無いでしょうし、それで十分よね。

 メグの部屋は、隙間からちらりと覗いたところ、どうやらダブルベッドに買い換えたらしくて、部屋の真ん中をデンと占拠していた。代わりに、仕事部屋がリビングに移動している。どうせ、パソコン一つのお仕事だから、電源さえあればどこでも良いのよね。

 食事の後は、宴会に突入。お土産のウォッカをジュースで割ったカクテルで、久しぶりのヤオイ談義に花が咲いた。

 メグとは話が合うの。笑いのツボも似てるし、好む作品の傾向も近い。私も版権モノよりオリジナルで売ってるから、今度の同人誌のネタとかで、何時間でも喋っていられる。

 その側で、私とメグの給仕に徹しながら、岳志さんは今回私が持ってきた売り物の同人誌を読んでいた。過去の出版物と合わせて5誌持ってきたんだけれど、もうすでに3冊目に突入している。

 あんまり真剣な表情で読んでいるから、私は彼に声を掛けてみた。

「気持ち悪くないですか? 女がゲイもの書くなんて」

「そんなことないよ。人の心の機微が描かれてて、とても良いと思うよ?」

 誌面から顔を上げて、彼はごく真面目な顔でそう誉めてくれた。見下ろせば、メグの寄稿ではなくて、私が描いた部分だった。

 メグは小説書きだけれど、私はマンガを描く方。ページ数が膨大になってしまって、いつも分厚い冊子になっている。おかげで値段も高いから、人気サークルの一端を担ってはいるけれど、在庫も結構余ってる。

 メグが寄稿してくれていることを宣伝文句にあげれば、あっという間に売り切れることはわかってる。でもね、あくまでメグはお客様で、私の作品が主体なの。だから、私のマンガを買ってくれたおまけで、こじまめぐみがついてくる特典の方を、私は選んだ。

 持ち帰る荷物が重たいのには閉口するけれど。仕方が無いわね。自分が選んだ道だもの。

「漫画家になるつもりはないのかい?」

 やけに真面目な口調で言うから、ちょっとだけ、息を呑んだ。

 そりゃ、昔はそんなことを夢見たこともあるけれど。

「ムリですよ、私なんかが本職の漫画家なんて。同人活動で十分です」

 マンガを描くことは、結婚するまでずっと続けるつもりではいる。けれど、それを仕事にしようと真剣に考えたことは無い。一度雑誌の新人賞募集に投稿したことはあるけれど、見事に一次選考で落選したみたいだしね。

「そういえば、マァコ、去年のボーイズで最終選考まで残ってたよね。一昨年、一次で落ちたからもう投稿しないって言ってたし、諦めたんだと思ってたけど。あと一歩だったんじゃん。頑張れば良いのに」

「ちょっと待ってよ。去年? 出して無いわよ? 募集に投稿したの、後にも先にも一昨年の一度きり」

「え? だって、載ってたよ? 富田まぁこ、って」

 ちょっと待って、って言って、寝室に入っていくのを、私はただ呆然と見送った。

 富田まぁこ、って同人誌に出すときのペンネーム。同姓同名はそうそういないと思う。私にとっては本名すれすれだけれど、こんなあだ名は珍しいだろうし。

 戻ってきた私の目の前に、メグは、一昨年はドキドキして開いた、新人賞募集の結果発表ページを差し出した。向こう側に座っていた岳志さんも身を乗り出して見下ろす。

 そこには、一昨年描いたマンガの題名が、デカデカと書かれていた。

 つまり、一昨年投稿したそれが、何の手違いからか、去年の選考対象になってたってこと。そりゃ、ぎりぎりになってから郵便に出した私も悪いけれど、それでも一週間あれば届くと思うわよね、普通。

「郵便事故かもしれないね」

 話を聞いて、岳志さんはそう結論付けた。そうだね、と反対側のメグも頷いている。

「選評、見ても良い?」

「うん、良いよ。結構辛口だけど、良いこと書いてある」

 確かに辛口で、でも、わかっている問題点をしっかり指摘されていた。その上で、次回に期待、と締められていた。

 本人がもう諦めていたなんて、先方は気付きもしていないのだろう。

「また、出してみようかな?」

「そうしなよ。まぁこの書く話、だんだん面白くなってる。今度こそ絶対、入賞するって。保証する」

「そうだね。俺も、この話とか、商業誌で読みたいかもな。そうしたら、友人に紹介できる」

 この、って指差したのは、今回の最新作だった。私が選評を読んでいる間に、古い本から手を付けていた彼は、そこまで辿り着いたらしい。

 最新作を誉められるのは、とても嬉しい。

「毎回恩の作品に挿絵入れてるんだな。恩と相性良いだろ? 俺の想像にぴったり一致する挿絵がついていて、なかなか良いと思う」

「でしょ? 俺も、マァコが本職の漫画家なら、絶対指名するのに、っていつも思ってるんだよ。キャラデザもずけずけ注文できるしさ」

 ホントに、この二人は人を持ち上げるのが上手だ。豚だっておだてれば木にも登るぞ。





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