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 公園から家までの道のりは、いつもめぐちゃんはボクを抱っこしてくれる。今日は、ボクの背中に子猫を乗せて、ボクごと抱き上げた。この捨て猫が子猫でよかったね。

 子猫は、家についてかろうじて残っていたミルクをもらうまで、切なそうにミーミー泣いていたけど、皿にミルクをもらった途端に、一心不乱に舐め始めた。

 よっぽどお腹がすいていたんだろう。

「じゃあ、ケン坊。岳志が帰ってくるまで、子猫の世話、よろしくね」

『めぐちゃんはお仕事?』

「そう。お仕事。締め切り近いからね、そろそろ焦らないと、お給料がもらえないだろう?」

 あっという間に空になった皿にミルクを注ぎ足して、めぐちゃんは仕事部屋に入ってしまった。子猫はボクのことなんか見向きもしないでミルクに夢中だし。

 テレビでも見よう。そう思って、ソファに登るスロープをとっとっと三つの足で登って、リモコンのボタンを踏んだ。

 ちょうど、ニュースの時間だった。

 人間の時事ネタに詳しい犬なんて、ボクだけだろうなぁ。

 ぴちゃぴちゃという水音が聞こえなくなって、子猫を見下ろすと、すっかりきれいに舐められた皿に顔をつっぷして、子猫が爆睡していた。

 その姿は、めちゃくちゃ間抜けで可愛かった。

 まったく、猫に可愛いなんて思う日が来るとはね。思わなかったよ、ボクは。

 その格好だと喉がつらそうだから、ボクは仕方なく腰を上げた。

 大変なんだよ、三本の足で動くのって。めぐちゃんはボクが頑張って動いてるのを見て、結構行動的、と評価してるけどね。しなくて良いなら、ずっと寝そべっていたいんだ。

 スロープは、前の踏ん張りが効かない分危ないから、座って降りる。っていうか、ずるずるとすべる。

 ボクがぶつかっても危なくないように、って、床の近くには柔らかい緩衝材がたくさん付いている上に、障害物が少ないから、猫のところまで一直線で着いた。

 小さい身体を口に咥えて、来た道を戻る。ソファの上におろしてやった。ここなら、下も柔らかいし、ぐっすり眠れるだろう。

 で、ボクはまた、ソファにずべっと寝転んで、テレビを見るわけだ。最近、ちょっと気になるニュースがあってね。続報を楽しみにしてたりする。




 二時間後、夕飯の支度をしに仕事部屋から出てきためぐちゃんは、子猫を包むように抱いてテレビつけっぱなしで寝こけているボクを見つけ、笑いを押し殺していたらしい。




 翌日。

 子猫はボクを親と間違えているらしく、ニャンニャンとはしゃいでボクにまとわりついた。ボクも、それが別に嫌でもなかったから、子猫の好きにさせていたけれど。

 昨夜、ボクと子猫が仲良く寄り添って眠っているのを見て、夜中に帰ってきた岳志さんは、飼っちゃえば?とのたまったらしい。

『いや、だから、ボクは犬だしね。こいつ、猫だしさ』

「でも、別に嫌いじゃないでしょ? ケン坊のペットに、飼っちゃおうか」

『ボクのペット?』

「そう。俺が仕事している間の遊び相手。躾はケン坊に任せるよ?」

 ボクのペットかぁ。

 それはちょっと思っていなかった発想で、うーんと考え込みながら、ボクの無事な前足にじゃれついている猫を見やって。

『良いよ。ボクが躾する』

「よし、決まりだ。じゃあ、名前をつけなくちゃね」

 この子はオスかなメスかなと言いながら、遊んでいる最中の子猫を抱き上げてひっくり返しためぐちゃんと、突然身体が宙に浮いてびっくり眼の子猫に、ボクは可笑しくなって笑った。だって、変な行動に変な顔なんだもん。

「何笑ってるの? ケン坊」

『なんでもないよ。で、オスだった?メスだった?』

「おちんちんが無いからメスだね」

『じゃあ、名前はミーで』

「じゃあ?」

『ミーミー鳴くから、ミー』

「安直」

『いいじゃ〜ん。ボクのペットでしょ〜』

「はいはい。じゃあ、名前はミーで。首輪とご飯皿買って来ようね。ケン坊、行くよ」

 行くよ、と言いながら、ボクに動くことを指示するわけでもなく。寝そべったボクの背中にミーを乗せて、めぐちゃんはボクごと抱き上げた。




 こうして、ボクにはペットが出来た。名前はミー。ペットショップのおじさんの目利きでは、アメリカンショートヘアの血が濃い雑種。

 人間の言葉がわかるボクは、猫の言葉もわかるらしくて。躾は結構簡単。

 ただし、猫のほうはボクの言葉がわからないみたいだけれどね。





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