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 そこに寝そべられると俺が座れないから、抱き起こして座って膝の上におろす。口元にジャーキーを差し出したら、パクン、とそれを銜えた。

「おやつ、ね」

『でも、ボク、七面鳥がいい……』

「七面鳥じゃなくて、鴨だってば。岳志さんが来てからね」

 七面鳥が良かったんだけど、と鴨を選んだ理由を教えていたら、どうやら七面鳥の方に気が取られていたらしい。そんな勘違いも可愛いところだと思えるのだから、小動物は偉大だ。

 ちょうどその時。玄関のチャイムが鳴った。岳志さんだ。

 ケン坊を放り投げて立ち上がろうとした俺は、放り投げられたケン坊がうまく着地して先にリビングを出て行くのを見て、思わず苦笑してしまった。

 相手を確かめもせずに玄関を開ければ、案の定、そこに立っていたのはまだスーツ姿の岳志さんだった。二人揃ってのお出迎えに驚いたらしい。目が丸くなっている。

 俺の足元で、ケン坊が「ワン」と吠えた。

「ご飯お預けくらって拗ねてるんだよ、ケン坊。着替えてきて? ご飯にしよ」

「あぁ、うん、そうだな。ん〜、良い匂い」

「へへっ。珍しく腕によりかけちゃった。期待して」

「オッケー。着替えてくるよ」

 ぽんぽん、と俺の頭を撫でるように叩いて、ひらひらと手を振って岳志さんがいなくなる。最初はそれが子ども扱いのようでイヤだったけれど、今はその仕草がとても幸せだ。だって、こんな風にするのは恩にだけだよ、なんて耳元で囁かれれば、変な意味は無いってわかっていても、嬉しいよ。

 嬉しそうにパタパタと尻尾を振るケン坊を見下ろして、俺は幸せいっぱいの微笑を浮かべたまま、ケン坊に両手を差し出した。

「さ、食事にしよう」

 俺の腕に乗っかって、ケン坊は嬉しそうに甘えた声を上げた。

 オーブンに再び火を入れて、鍋の中身をかき混ぜていると、すぐに岳志さんは自分で玄関を開けてリビングへ入ってきた。

 リビングの入り口では、ケン坊が一本の前足で前身を支えて、ちゃんとお座りして岳志さんをお出迎えしていた。尻尾振りは相変わらず全開。

 岳志さんがケン坊とご飯皿をコタツのそばに下ろして手を洗いに行く。その間に、俺は食事の準備を済ませる。

 ケン坊の皿の上には、ビーフシチューをよそってやった。岳志さんは、そのそばで、ローストダックを骨から解体して食べやすくして、そのそばに添えてくれる。

 それから、二人向かい合ってコタツに入った。ちなみに、ちょっと奮発したシャンパンが純日本風のコタツの上に燦然と輝いている。

「うわ。うまそう〜」

『早く早く』

「ちょっと待って、ケン坊。ちゃんといただきますしてから」

 今にも喰らいつきそうなケン坊に注意して、シャンパングラスにそれを注ぐ。

「乾杯〜」

「メリークリスマース」

『めりくりす?』

 多分訳がわかっていないのだろう。とぼけたように問い返して首を傾げるケン坊がおかしくて、俺は思わず笑ってしまった。ケン坊と俺が意思の疎通が出来ることは岳志さんも知っているから、俺が突然笑い出しても最近では気にしないみたいで、微笑ましげに笑われた。

 それから、手元のフォークを手に取り、岳志さんはケン坊の顔を覗き込む。

「いただきます。ケン坊、食べよう」

『わーい。いただきま〜す』

 ようやくご飯にありつけた嬉しさからか、思わずがっつくケン坊に、俺も岳志さんも楽しく笑わせてもらった。

 食事もあらかた済んだところで、俺はテレビ台の上に少し隠すように置いておいた包みを取ると、岳志さんの傍らに膝を突いた。

「岳志さん」

 ん?と問い返しながら振り返って、俺の手元を見てその意味がわかったのだろう。少しバツが悪そうに頭を掻いた。

「ごめん。俺、何も用意してない」

「うぅん。良いんです。これは、俺が勝手に用意したものだから。メリークリスマス」

 無理やり渡すように、ぐいっと胸元に押し付けると、岳志さんはそれを嬉しそうに受け取った。

 それから、自然な仕草で俺の肩を抱き寄せる。驚いた俺の額に、優しい感触。

 え、それって?

「お礼に、なるかな?」

「……良いの?」

「間違ってなかったら良いんだけど。俺も、恩が好きだよ」

 伝わって、いたんだ。

 すごく、感動してしまって。一瞬、言葉が出なかった。

「岳志さん……嬉しい……」

 もう。耳まで赤くなってるのは自覚してるんだよ。だって、嬉しくてちょっと恥ずかしくて。顔がほてっちゃう。

 ぐいっと目元に涙まで浮かべる俺に、岳志さんは幸せそうに笑ってくれて。

 そっと近づいてくる唇を待って、俺はそっと目を閉じた。





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