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いやしかし、今なんか面倒な行事を聞いた気がするぞ。
「特別カリキュラム?」
「そう。
学校説明で聞いてない?
クラスは能力関係なく年齢順に振り分けられて、学年が上がってもそのまま持ち上がりなんだけど、その代わりこのカリキュラムグループは個々の能力に応じて半年に一度組み替えられるんだ。
基礎強化能力保持者と特殊能力保持者が二人一組で組んで協力作業の実習したりとか、単独での能力訓練とか、複数人グループでの実習とか、リーダシップ養成カリキュラムとか。
班ごとに決められてて、与えられた課題をこなすわけ。
まぁ、あれだよ。研究者のモルモット。
どうすると能力者の有効活用ができるか、ってことだろ」
なるほど、この学校の主目的だ。
それぞれにバラバラな能力者を能力を持たない権力者の意のままに操ろうと思うなら、まずはどうするのが効率的なのかとか調査しておく必要がある。
これを教育との一石二鳥で実践しようというわけだ。
「サボって不良生徒しようかなぁ」
「ダメだよ。それじゃ模範学生の俺とツルめないじゃん」
あぁ、そうか。
寮長を任されるくらい上層部の信用を得ているってことは、優等生してるのは推して知るべきだった。
「じゃあ、真面目に参加しながらサボることにする」
「サボること自体は決定なんだ」
面白がって高橋が笑うのに、苦笑と共に肩をすくめたのは俺より皇の方が早かった。
「俺が勧めたんだ。厄介事に巻き込まれるのが嫌なら実力は隠せって」
「ほほぅ。
それはつまり、実力全開にすると厄介事必至って事か」
「だろうなぁ。
実力を正当に評価したら、いきなりトップに躍り出るよ。松永さんを抜いてね」
その松永という人がどういう人なのかわからないけど、現在トップに君臨しているのだろう。
途端に三人が一斉に驚いた。
「てことは、特殊能力使いなのか。
しかも、瞬間移動できる強力タイプ?」
俺のは瞬間移動というより空間移動って感じだけど。
否定するならその実力を見せなければならず、そこまでして理解してもらおうとも思わないから、特に訂正はしない。
それに、皇にもまだ細かい内容までは話していなかったから否定する材料もなくて、皇はあっさり頷いた。
「それを言い切れるって事は、事例があるんだろ?」
確認するように問われれば、皇もさすがに口ごもった。
そもそも向こうの世界でハワイから自宅へ、なんて事例はいきなり遠距離かつ現実的過ぎる。
なので、もっと現実離れした事例を俺から提供することにした。
「理論的には月の裏側でも可能だよ。
空気が向こうにない分、実現は無理だけど」
ちなみにそれは物的証拠つき。
食材をストックするような蓋付きのビンに月の石と砂を入れて寮の部屋にすでに飾ってあるんだ。
割れ物を宅配便で送る気にはなれなくて、これだけはスポーツバッグに入れて持って来ておいた。
「座標誤差がねぇ、遠くなるほど大きくなるから、正確に目的の座標に着けるのはせいぜい月くらいかな。
半径何千キロって誤差があって問題ないなら、宇宙の果てだって行けないことはないよ」
口でさらっと言うには現実味のない事例をすらすらと挙げる俺に、皇も含めた四人全員が唖然としていた。
まぁ、最長二キロって言ってる世界でいきなり宇宙の果てでは、そりゃ現実と思えないのも無理はない。
もちろん俺の能力は、さっき玄関先で披露したとおり長距離移動以外にもいろいろできる。
眼鏡をかけたくらいの距離に別の場所とつないだ窓を作れば覗き穴ができるし、俺の口元と相手の耳元をつないで声を届けることも可能。
ただし、頭脳の処理能力に人間ではあるから限界があって、同時に三つまでって制約はあるけど。
俺の能力をまとめていえば、空間に干渉する力ってことなんだ。
それをどう使うかは脳の処理能力と発想力による。
空間を切り取るか、空間と空間を繋ぐか、それだけしかできない能力だけどそれだけのことができる能力とも言えて、結局は応用力があるかどうかがこの力の使い道を決めるわけ。
「そんな距離を飛んだりしたら、ぶっ倒れないのか?」
どうも、俺の能力の根本が理解されていないようでそんな問い方をされたので、俺は肩をすくめて首を振った。
「いや? 距離は特に関係ないよ。
それよりは大きさが問題。
余裕で使えるサイズだと、寮の部屋の横幅くらいがせいぜいかな。
どこまで大きくできるのかはやって見たことがないからわからないけど」
つまり多分、最長二キロの瞬間移動ができる人とは、使う能力の原理が違うわけだ。
それにしても、隠しているのでないのなら、俺が使う能力と同じ原理の力を使う人がこの学校にはいないというわけだ。
そういう問いかけがくるということは、理解されるほど認知されてないって事だからね。
どこまで見せたら拙いのか、微妙に判断がつけにくい。
近しい人にはそれなりに見せてあげたいという気もあるから、難しいところだね。
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