一言メッセージお礼(2010/12/26〜2011/2/16)




〜皇の独白〜


 自由が貴重だと思えるのは、束縛された経験がある人だけだと俺は思う。

 自由を謳歌できるこちらの世界で、俺は家族に連れられて高一の夏に引越しをした。
 せっかく猛勉強して入った地元県一位の進学校から、都内有数の進学校へ。
 正直高一で良かった。後半年もしていれば受からなかっただろうと思えるくらい難しい編入試験だった。
 計算スピードと反応スピードには自信のある俺ではあるが、そもそも俺が優秀なのはそのスピードが常人の二、三倍っていう理由が大半であって、記憶力はそんなに良くないんだ。

 そういう事情で転入した高校で、俺はある男の子に一目惚れをした。
 そこで特筆すべきは、その相手が『男の子』ってこと。
 俺には同性愛の趣味なんかもちろんない。
 中学でも前の高校でも女の子たちにきゃあきゃあと黄色い歓声をあげさせた程度には、容姿にも性格にも自信がある。
 そんな、ある意味選り取り見取りも可能な立場にありながら、目を奪われたのは男の子だったんだから自分で驚いた。

 その子は自分の可愛らしい容姿をまったく自覚していなくて、優秀な頭脳をひけらかすこともなく、というかせっかくの優秀な頭脳を生かさず手を抜いているようなんだけれど、ただひっそりと目立つことなくクラス内に生息する小動物のような子だった。

 話しかけてもオドオドと自信のなさそうな受け答えをするし、そのくせ人の目をじっと見つめて長いまつげに彩られた目をパチクリと瞬きする様子はまるで幼い子供のようで、もしかしたら人に慣れてないだけなんじゃないかと気がついたのはクラスメイトになって一ヶ月ほど経った頃のことだった。
 周りの人は根暗だの偏屈だのと悪し様に言うけれど、そんな評価はたぶん不正解だ。
 あれは、何らかの事情で人付き合いを出来なかったんだろう。おそらく間違いない。

 確信してから、俺はまず彼の友人になるべく動き出した。事ある毎に話しかけ、相手の言葉を引き出す。
 そうしてみれば、俺なんか足元にも及ばないくらい頭が良いことが良くわかった。
 会話することだって慣らしていけばあっという間に習得して、戸惑うことが少なくなれば挨拶するような友達も増えていった。

 告白したのは、さらに一ヶ月くらいした頃。
 甘えて擦り寄って構い倒して休日に一緒に遊びに行くようにもなって、そのうちに絆されてくれたらしい。
 仕方ないなぁって笑いながら、俺の積極アプローチも受け止めてくれて。

 クラス公認のラブラブカップルが成立してからは、彼からも甘えてくれるようになった。
 開けっ広げとはいわないまでも、衆目の中でスキンシップくらいなら嫌がらないし、毎朝手を触れて体温を分かち合ってふわりと笑いあうところから一日が始まるくらいには頼りあっていた。

 それは、高校二年に進学してすぐの頃だった。
 彼が夢の話を聞かせてくれるようになった。夜見る夢の話。それは、俺も知っているもう一つの世界の話だった。
 その世界で彼は超能力使いなのだというのだ。
 春休みに出かけたハワイ旅行で忘れ物をして家に取りに戻った話や、朝寝坊して学校にジャンプした話、気に入りのマグカップを落としてしまって手のひらに受け取った話とか。
 失敗談だからこそ会話に現れる異能力に、俺はそれがどれだけすごいことなのかを知っているからこそ聞き耳を立てていた。

 もう一つの世界でも同じ場所に住んでいてこの高校に通っていると聞いてしまったら、もうそれ以上の自制心なんて効くわけがなくて。

 もう一方の世界で、友人の力を借りて彼を自分の生活空間におびき寄せた。
 彼にはきっとすごく気の毒なことをしてしまったのだと自覚している。
 何しろ自分自身が拘束だと感じていることを愛しい人に強いるのだから。

 だからこそ、全力で守るから。
 向こうでもこっちでも、そばにいて欲しい。
 そう、思ってるんだ。





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