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 そんな平穏な暮らしでも、たまには事件が起こる。

 何しろ、身の回りに寮長が三人もいるんだ。
 閉じ込められた世界だからこそ、精神的な限界を感じて問題を起こす住人は後を絶たず、年齢差十歳のジェネレーションギャップもトラブルの要因だ。

 場所は白虎寮18階。時間は三時間目の授業中。第一発見者は鈴木だ。

 丁度国語の時間で、クラスメイトの一人が教師の指示で教科書の音読中だった。
 いきなりガタッと音を立ててその場に立ち上がり、全員の注目を集める。
 そんな注目など気にする余裕も惜しいとばかりの大慌てで、教師ですら咎めるタイミングを失っていた。

 続いた言葉で咎める理由もなくなったが。

「危ねぇっ! 誰か知らんがベランダの柵乗り越えようとしてやがる。あれじゃ死んじまうっ」

「どこだ!?」

 聞いた途端に阿吽の呼吸で確認の声を上げたのは皇だ。
 自分に関係のあるなしに関わらず、責任感が強い証拠だろう。

 周りを見回して確認して、鈴木がむっと眉間にシワを寄せた。

「白虎寮18階? 上から三階下」

 皇と植村と高橋が同時に俺の方に向かって来るから、用件は簡単に予測がつく。

 まずは白虎寮ベランダ側を見渡せる位置に覗き窓を作って場所を確認し、俺の後ろに空いている教室後方の空間に人が通るサイズにゲートを作る。

 安全確保用の壁を波打たせて見えるようにしたら、三人とも俺に確認すらせずに飛び込んでいった。
 それとは別に教師が前方の扉から飛び出していったのは、事態を知らせるために職員室へ向かったのだろう。

 鈴木はハラハラとした様子で現場を見守っていた。
 他のクラスメイトもできることもなくて心配そうにしているしかない。

 ゲートを出た向こうが俺の目ではゲート越しに見えるから、空中の覗き窓は解除して脳の余裕を確保して、ゲートを双方向に繋ぎ直した。
 それから、白虎寮の寮長である野川さんを探して、すぐそばに穴を通して話かけた。

「野川さん。白虎寮で自殺未遂です。こちらで救出に向かいました。1811号室」

 野川さんがありがとうという言葉と共に頷いたのを確認して穴を閉じた。
 助けた後の対応は野川さんに任せておけば良いはずだ。

 現場に繋いだゲートの向こうでは、飛び降りる瞬間を高橋が捕まえて無理矢理引っ張り上げたところだった。
 鈴木が事件を発見してから一分も経っていない。
 能力者が上手く連係すると、こんなスピード解決するんだとしみじみ思い知った。





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