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「代わりに斎木がトップ取っちゃえば良いじゃない?」
(ヤだよ。目立つの嫌い)
「そこは相変わらずか。
まぁ、無理することも無いよ。俺たちの影に隠れてのんびり過ごせば良い。
俺が呼び寄せちゃったんだ、壁の役目くらい果たすよ」
罪滅ぼしっていう意味なら松永さんの能力を封じてくれたので十分だけど。
まだ気にしてるみたいだし、それはもう俺が気にするなと言っても無理なんだろうから。
(うん。ありがとう)
ここは素直にお礼を言うべきだろう。
にこりと笑って見せると、植村もまた嬉しそうに笑ってくれて、俺の頭をくしゃりと撫でた。
あ、意外と嫌じゃない。
「あぁ、もう。可愛いなぁ、斎木は。
そこで肝心な時に寝こけてる間抜けなんて放っといて、俺に乗り換えない?」
「あ、植村ずりぃ。それ、抜け駆けだろ」
「はいはい、俺も立候補! 斎木、俺を選べよ。飽きさせないぜ」
「俺ならボディガード完璧だぞ。俺にしようぜ、斎木」
「こんなバカ共より俺なら斎木の心も癒してあげられるよ。地元も近いし」
植村の台詞を発端に三人揃って何だか言いたい放題だ。
っていうか、彼らに口説かれるとは思ってなかったからびっくりして固まってしまった。
そうして大騒ぎしていたおかげなんだろう。
ベッドの一部を押しつぶして眠っていた皇がいきなりガバッと起き上がった。
「お前らうるさいっ。稲荷がゆっくり寝られないだろっ!」
「……お前が一番うるせぇよ、天野」
「斎木なら起きたぞ。お前が居眠りしてるうちにな」
三人分の声は寝ていても聞こえてたみたいだね。
鈴木と高橋に突っ込まれて、皇もようやく俺を見てくれて。
その途端に力が抜けたようにくたっと居眠りしていた姿勢に逆戻り。
「良かった。稲荷、このまま目を覚まさなかったらどうしようかと……」
向こうでは会ってても、仲良くふざけあってても、こっちでの皇はやっぱり心配してたんだ。
その気持ちが嬉しいと思える。
けど、眠りすぎた身体は思うように動かないから、皇に手を伸ばすこともできなくて。
(植村)
「……ん?」
(俺、やっぱり皇が良いみたい)
「うん。知ってるよ」
(気持ち、応えられなくてごめんね)
「バーカ。気にすんなよ。
俺らのはちゃんと友情だよ。お前は天野の手だけ離さなきゃそれで良い」
能力のせいなのか元々の性格なのか、ぽふぽふと俺の頭を優しく撫でてくれる植村はすごく穏やかだ。
鈴木は皆を引っ張ってくれるムードメーカーで、高橋も気の優しい普通の高校生って感じで。
それでもやっぱり、俺がこの身を委ねられると思うのは皇だけだから。
「……こう」
かすれてちゃんと出ない声で皇を呼ぶ。
すぐ近いところにいてくれる皇が、聞き漏らさずに反応して植村に握られているのと反対の手を包んでくれた。
顔を寄せて声を聞こうとしてくれるから、声を張り上げずに済む。
「……おはよ、こう」
「うん。ってか、稲荷寝すぎ。心配するだろ」
「ん。ごめん。……ありがと」
素直に謝ってお礼を言って。目を細めてにっこり笑って見せた。
「大好きだよ、皇」
「患者さんが目を覚ましたと聞いて来ました。診察しますので下がってください」
俺の声は、扉をガラッと開く音と医者の元気すぎる声に上書きされて皇まで届かなかったみたいだけど。
他の人に口説かれて自分の気持ちを自覚するってのもどうなんだろうなぁって、俺は自分を振り返って苦笑することになったんだ。
丁度枕元にやってきた医者には怪訝な表情をされてしまったよ。参ったな。
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