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 翌日。
 目が覚めたら見慣れない白い天井が見えた。
 口の辺りを何かが覆っているようで、腕がチクリと痛い。
 ということは、病院らしい。

 目を開けてしばらくぼやんとしてから、周囲を観察してみる。
 右隣に点滴のポールが立ってるし、頭上には俺の名前が書かれてあって白いパイプベッドの柵が見られる。

 で、左隣には人の気配があって、俺はそちらに目を向けた。
 人がいるにしては声をかけてこないのが不思議で。

 そこにいたのは、ベッドに突っ伏して眠っている皇だった。

 皇が傍にいてくれることは嬉しく感じるのだけれど、幸せに思った途端疑問を思いつく。
 そもそも、自由に外出することもままならないはずのあの学校の学生が、しかも別に身内でもないただのお隣さんなのに、ここに付き添っていて思わず居眠りする事態というのはどういうことなのやら。

 一向に目を覚ます気配の無い皇に首を傾げていると、タイミング良く病室のドアが開かれた。

 やって来たのは、鈴木、高橋、植村の三人だった。
 三人それぞれに見舞いの品らしい何かを持っている。
 鈴木は書籍部の袋、高橋は花束、植村はお菓子の詰め合わせ。

「あぁ、斎木。目が覚めたのか、良かった」

「で、そこで寝てんのは天野か?」

「感動の目覚めの瞬間に居眠りとは、しまらねぇなぁ、天野」

 向こうの世界で俺が元気に暮らしているのを知っているからあまり心配していない、と判断して良いものなのか、三人はいつもの調子だった。
 それから、鈴木と高橋はベッドの足元を回って反対側にいる皇を起こしにかかり、植村がまっすぐ俺の枕元に来てくれた。

「目を覚ましてから、ナースコールした?」

 尋ねられて気がついた。
 まだ寝起きでぼんやりしているせいもあるだろうけど、そこまで気が回らなかったよ。
 素直に首を振って否定したら、植村が代わりに看護師を呼んでくれる。

 それから、点滴の針が刺さっていて布団の外に出されたままの手を取って、俺に話しかけてきた。

「頭に思い浮かべたら読み取れるから、無理に返事しなくて良いからな。
 現状を説明しようか?」

 はい、お願いします。
 頷きながら自分の脳裏になんとなく文字を思い浮かべるイメージで返答する。
 それで受け取れたらしくて、植村はちょっと笑って頷いた。
 敬語で返したのが面白かったのかな。

 一方で、よっぽど疲れてるのかなかなか目を覚まさない皇に鈴木と高橋がイタズラをしかけてくすくす笑っているのが見える。
 ホント、平和な光景。

「知ってると思うけど、今日は日曜日。
 監視がつくとはいえ自由に外出することが可能な日だから、お見舞いに来たよ。
 天野は今日の朝早くここに来て、そのままここで斎木が目を覚ますまでいるつもりだったんだろうね。
 昨日も面会時間のはじめから終了ギリギリまでいたみたいだよ。
 ここは二子玉川の国防軍所管の国立総合病院。
 症状は説明しなくてもわかってるだろうから省くね。
 何か質問はある?」

 自分がどこにいて、見舞いに来てくれたこの四人がそもそもどうしてここにいられるのか、といった現状を説明してもらってこれ以上訊くべきことも無い。

 あぁ、そうそう。一つあった。
 
(松永さんは?)

「さぁ。俺らも目を覚まして皆集まってすぐにここに来たから、学内のことは把握できてない。
 気になる?」

(俺が原因だから。こっちでも力使えないんでしょ? あの人)

「斎木が気にすることじゃないよ。そもそも自業自得だ」

 うん。それはわかってる。
 俺自身指の一本も奪ってやろうかって思う程度には怒りを感じたし。
 そう感じさせるようなことをあの人はしたんだ。俺たちのような能力者の前で。
 それによって自分の身に何が起きるのか、知らなかったなどとは言わせない。

 それでも、今異能力者のトップだと言われている人がある日突然能力を失ったとなれば大問題だろうとは容易に想像がつくからね。きっと大騒ぎだ。





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