50




 病室の松永さんは、丁度眠っているところだった。

 他二人の一年生はやっぱり眠っていたから、その隙にあの事件の日の記憶を植村の能力でアリバイ工作通りに作り変えてきたけど、そもそも松永さんの意識を変えないと同じことの繰り返しになってしまうからこちらはそうもいかない。

 四人分の人の気配に気づいたようで、松永さんはすぐに目を覚ました。

 俺の役割は結界を張るだけなので、ついでに松永さんの身体も拘束してみる。
 部屋を覆う消音結界と空気穴、残った一つを松永さんが寝ている形に固定してみたわけだ。

 俺たちの姿に気づいたものの動くに動けない松永さんは、その代わりにけっこうな大声でわめきだした。
 まぁ、外には漏れないから好きなだけ騒げば良いよ。

「なっ! お前ら一体何しに来たっ」

「ん〜、お見舞い?」

 何故か疑問系でこの中で唯一同年齢の野川さんが答えてくれる。
 廊下の方も一緒に見えるようになのだろうけど、ベッドの向こうに回って窓際に寄りかかるように立っていた。
 そういえばこの室内、布類とお見舞いの花以外はみんな無機物だ。
 観点を変えて観察すると意外な発見がなかなか多い。

「人を動けないように縛り付けて、見舞いかよっ」

 その途端、他三人がそれぞれに顔を見合わせた。
 どうやら縛り付けたという言葉の意味がわからないらしい。
 けど、そこで野川さんまで理解できない顔なのは何でかな。
 彼の前でこの使い方するの、二度目だけど。

 一人だけ平然としているから、それが俺の仕業だとはすぐに気づいたらしい。
 松永さんを含めて四人揃って俺に目を向けてきた。

「稲荷の力?」

「うん」

 改めて問われれば否定の理由もないし、このメンバーで手を触れずに拘束できる能力なんて俺の『壁』くらいだから言い逃れもできないしする気も無いし。素直に頷く。
 途端に俺を尊敬するかのような眼差しで見られるのは腑に落ちないんだけどさ。

「そういうわけで捕まえとくから、続きをどうぞ」

 最終的に手を施すのは植村の力で、俺はそもそも結界係。
 先を促してやれば、植村もそうだったと我に返った。

「松永さん自身に選んで欲しいんだけどね。
 これ以上斎木にちょっかいを出さないと約束するか、その力を失うか。
 ちなみに約束を選んでおいて何か企むと生命の危険が伴うので、慎重に選んでください」

 その言葉自体にすでに暗示が込められているのだろうと判断する。
 だって、そのくらいの台詞ならこのグループのリーダーを自然に担った皇にだって言えるんだから。
 植村がわざわざ言うべきことではない。

 唖然とした表情で植村の顔を窺う松永さんが、それからすぐに眉間に皺を寄せた。

「そんな根も葉もない言い掛かりをつけるために、寮長二人連れ立ってこんな風に人の自由を奪ったというのか。
 冗談も大概にしろ。俺はどう見ても被害者だろうが」

「自業自得だと思うんだけどね。あの場に石灰の袋を持ち出したのはお前自身だろ」

 寮長二人ってもう一人は誰だろう、と俺が首を傾げている間に、野川さんがツッコミ返していた。
 あぁ、消去法でこの人しかいないか。
 さすが生徒会長。どこかで肩書きを持つ人は、いろんなところで持ってるものだよね。

「どこにそんな証拠がある」

「あの時、物を空間移動できる人間は二人いた。
 けど、床に置かれていた重い石灰の袋を手も触れずに空中に放り出せるのはお前だけなんだよ、松永。
 斎木くんの力は、自ら動くものか誰かに動かされたものしか移動させられないんだからね」

 そうそう。それはすでに学校に公表してある俺の能力の制限事項だ。
 隠す必要も無く、この場合の俺のアリバイに実に有効だった。

 ぐっと詰まったのは咄嗟に次の言い訳を思いつかなかったせいらしい。
 その隙に、皇が追い討ちをかける。

「貴方はもう知っていることだろうけれど、稲荷は極端に運動神経が鈍い。
 軽く背を押されて踏み止まれずに自分の力で重傷を負うくらいにね。
 そんな稲荷に三十キロもある石灰の紙袋を素手で持ち上げることなんて不可能だし、他にもっと軽いものが床に転がっていたのに石灰の袋だけが風に舞い上げられたというのも無理がある。
 あそこにカマイタチが発生していたのは風を起こした本人だから稲荷は把握していたし、それをばら撒けば自分だって身が危険だというのにそんな危ない橋を渡るほど稲荷はバカじゃないよ」

 はい、思いつく限りの言い訳は潰しました、ってところかな。
 これだけ否定されればぐうの音も出ないらしく、松永さんは次に黙秘を選んだ。
 不貞腐れてそっぽを向き、寝入る体勢。
 まぁ、このメンバーが許すとはとても思えないけど。





[ 50/63 ]

[*prev] [next#]

[mokuji]

[しおりを挟む]


戻る



Copyright(C) 2004-2017 KYMDREAM All Rights Reserved
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -