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皇には内緒のつもりだったから、俺はガックリと肩を落とすしかなかった。
野川さんにだって学校を出る直前で行き先を告げたくらいだし、それから野川さんが皇に連絡したとしても皇が先回りする余裕はない。
ましてここに植村を呼びつけるなんてほぼ不可能。
となれば、昨日か一昨日くらいにはすでに俺の行動が読まれてて先回りされたと考えるのが妥当だ。
「止めに来たの?」
「だったら、植村はここに必要ないな。
違うよ。俺も、このあたりで決着つけとこうと思ったのさ。
何か行動を起こすなら、半ドン授業の今日がベストだ」
それに、と続けて、皇は植村を見やった。
俺もその視線に促されて彼に目を向ける。
俺の隣の野川さんも同じ行動で、もしかしたら野川さんもまたこの二人がここにいることは初耳なのかもしれないと気づく。
植村は何故か二度も頷いて後を続けた。
「斎木が傷ついて倒れた時から、俺もう責任感じちゃっていても立ってもいられなくてさ。
斎木を学校に呼び寄せたの、俺だろ?
余計なことしちゃったんじゃないかと思ってね」
「そんなこと……」
「わかってる。斎木は俺のせいだなんて思わないでくれるだろうってのは、ちゃんとわかってるんだ。
でもさ、頭では分かっててもやっぱり気になる。
だから、できることがあるなら何かしたいんだよ」
「そのために、わざわざ?」
「ってほど遠くないよ、俺の地元。
向こうの学校の近くでさ。ここまで電車で三十分、だろ?」
確かに、電車で三十分、駅からバスで十五分だから、一時間もあれば着く。
それにしても、学校のある付近が地元とは、何と言うか気の毒に。
それでね、とまた皇がその先を引きついで話し出した。
「せっかく稲荷も野川さんも来てくれたことだし、総力戦でいこうと思うんだ」
野川さんまで含めての総力戦発言に、俺はきょとんとした表情を多分したんだと思う。
野川さんの方に目をやれば、彼はどうやら納得したようだけど。
「無機物相手なら壁透かして見ることも可能だよ」
わざわざここで申告するということは、それは学校に公表していない能力なんだろう。
その申告に皇はこっくり頷いて返す。
「知ってます。稲荷に聞きました。
異能力使いの人ってみんな、学校に隠してる能力を持ってるんだなぁって最近しみじみ実感してますよ」
「ん? 斎木くんにも教えてないはずだけど……。
まあ、斎木くんだしねぇ」
「えぇ、稲荷ですから。目の前で使えば即バレますよ」
「使わなくたってバレるでしょ、斎木くんの場合。応用力がものすごい」
何で二人して俺の目の前で勝手に分かり合ってるのかな。
失礼だよね、二人とも。
俺だからって納得の仕方はないと思うんだけど。
「俺のことはどうでも良いよ。
それで? 総力戦ってどうするの?」
「どうすると思う?」
何か三人とも了解してるみたいだし、さっさと教えてくれれば良いのに。
訊いた途端に訊き返された。
考えてみろってことかね。まぁ良いけど。
そんなに選択肢があるわけでもないし。
「俺は閉じ込める結界係、野川さんは見張り役、植村の力で催眠暗示、ってところ?」
「な? だから、稲荷は個人技能訓練のマネゴトしてるより参謀訓練した方が良いって」
「俺はどっちかというと研究員のほうが向いてると思うなぁ。
技能指導っていうの? 是非して欲しい」
「本性出してる学生の方が少ないのにそれはないですよ」
「ん〜。もったいない」
いや、だからね、君たち。せめて是か否か答えてよ。
皇が結局俺の予測に訂正を入れずに「行こう」って皆を促したので、正解だったようだとはわかったけど。
まだ皇と以心伝心するほどお互いに理解しあってるわけじゃないのに、ここ数日の皇は俺に対する説明を端折りすぎだ。
分かるから良いんだけど、ちょっと寂しい。
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