47
一方、俺の症状だけど。
直前にここを見るようにと俺が空間を示していたことでそこに穴を開けたことは中島二佐も認識していたらしく、その場所を思いっきり俺の胸が通過したことでそれが何を意味するのかを知っているからこそ、彼にしては珍しく大慌てで救急病院に搬送されたそうだ。
検査の結果は不幸中の幸いを知らせるものだった。
俺が開けた穴が一ミリずれた先に出口を作っていたおかげで、丸くくりぬかれた俺の身体は一ミリだけずれてそこにとどまり、確かに穴は開いたけれど同じところに抜かれた部分がピッタリはまっている状態だ。
その上大きな血管には損傷が無かったのも良かった。
切れてしまった皮膚は縫い合わされることになったがそれ以外の内部は自然治癒に任せようというのが医師の診断だった。
何しろ血の一滴も漏れることなくぴったりはまっているのだから、変に弄らないほうが良いだろう、というわけだ。
すっぱり切れた傷って、同じところにくっつけておくと治りが早い。
それは料理中に包丁で切ってしまったような傷とか、紙でうっかり切ってしまった切り傷とかを、そのままくっつけて絆創膏で固定しておくといつの間にか傷がなくなっているという経験を何度かしているからこそ、実感を伴ってよく知っていることだ。
今回も同じように治るのを待とうってこと。
自然治癒に委ねるという判断はつまり、生命維持には影響が無いっていう医師の判断と同義で。
だったら数日のうちに目を覚ますだろう。良かった。
「良くないよ。稲荷の身体に傷が増えたじゃないか」
「……あれだけ傷があれば、もう一つくらい増えてもどうってことないと思うけど?」
「ダメ。俺はその前の日に、これ以上稲荷の身体に傷を増やさないって誓ったのに。
こっちの昨日といい、向こうの昨日といい、全然守れてない」
そりゃあ、どっちにも皇はそこにいなかったんだし、仕方が無いんじゃないかなぁ。
「それをいえば、俺なんてどちらも傍にいたのに守れなかったよ。
昨日のあれは本当に、俺が気をつけるべきだった」
いやいや、だから、あの状況では仕方が無いって。
ていうか、野川さんって確かに皇と同じタイプだ。反応が一緒。
何か二人揃ってしょげている姿が面白くて、俺は不謹慎にも笑ってしまった。
「……稲荷。笑い事じゃない」
「だから、もう気にしなくて良いってば。過ぎたことだし、俺はちゃんと生き残ったんだし。
それより野川さん。あの時俺の力暴走したりしませんでした?
穴開けっぱなしで気を失っちゃったから、心配だったんです。
風を起こす技とかは学校には秘密にしておきたいんですけど、バレちゃったかな」
「……ん、それは大丈夫。パチンって音がしたくらいで、何も起きなかったよ」
だったら良かった。
外傷程度ならいつかは治るもので生命に別状が無いならこだわることもないけど、力がバレたら一生面倒だからね。
そっちの方が俺には大問題だ。
何事も無くて良かったよ。
「それで、一個問題なんだよ、稲荷」
「……え?」
他には懸念事項が思いつかなくて、首を傾げて返す。
それは野川さんにも理解できなかったようで、一緒に首を傾げていたけど。
「制服着てたろ?
穴、開いた。
代わりの制服を明日発注するって言ってたけど、一週間くらいかかるんじゃないかな」
「……げ。私服登校は目立つからヤだなぁ。一週間くらいのんびり寝てようかな」
それは自分の傷より大問題だ、っていう反応を俺はしたらしい。
野川さんにはとうとう呆れられ、皇もため息を返してきた。
っていうか、皇がその話題を振ったんでしょうに。二人とも失礼だよ。
「ズル休みくらいは認められるだろうから、頼むから目を覚まして。俺が心配する」
ふむ。それは確かにそうだね。
「さすがに、自分の意思で目を覚ますのはムリだけどねぇ」
まぁ、そのうち自然に目を覚ますでしょ。
俺もまた、相変わらずの暢気ぶりだった。
[ 47/63 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]戻る