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そんな話が一段落した頃、おもむろにまた出入り口が開いた。
ほとんどのメンバーが集まっていたようでしばらく出入がなかったから、気を引かれてしまう。
現れたのは松永さん。
「すみません。遅くなりました」
ってことは、松永さんもこのグループってこと?
野川さんを無言で見返せば、頷きの返答が戻ってきた。
つまり、懸念は的中だったというわけで。
まぁ、野川さんがいてくれる分孤立無援ではないからマシだけどさ。
松永さんが来たところでこのグループの全員が揃ったらしい。
中島二佐が手を叩いて注目を寄せた。これからミーティングのようだ。
野川さんが珍しいと呟いているから、普段はしないのだろう。
ミーティングの内容は、まぁ今日一番のイベントとして当然だろうけど、俺の紹介だった。
「すでに噂で聞いているだろうが、当校高等部二年に中途入校の斎木稲荷くんだ。
能力は空間種。松永くんと同じく物体移動の訓練をしてもらう。
同室訓練になるため、皆に一点注意事項がある。
彼の能力は使い方次第で非常に危険を伴う。
よって、同室訓練者は彼に声をかけるなり気を引いてから間合いに入るように」
あぁなるほど、周知の必要な注意事項だ。
そのためにわざわざ人を呼び集めたのだとわかる。
俺以外の人には危険具合がわからないからね。
それにしても、空間種といえるのは俺くらいで、松永さんも野川さんも名付けるのなら物質種だと思うんだけど。
まぁ、瞬間移動なんて現象は他者から見れば空間使いに見えるんだろうから訂正はしないけどさ。
せっかく紹介されたのでペコリと頭を下げれば、俺が頭を上げる前にどこからか声が上がった。
「教官!
空間種の能力で危険なんてあるんでしょうか。
ボクも空間種であるだけに、濡れ衣を着せられないか心配です」
案の定、それは松永さんの声だった。
ってか、松永さんのその性格で「ボク」はないだろう。
ホント、ぶりっ子な人だ。
中島二佐は俺の能力の危険性をその目で見て理解している人だから、松永さんの指摘にも特に困ることなく受け答えてくれる。
まぁ、俺自身にお鉢が回ってこないのならどうでも良いことで、成り行きを見守るだけだ。
「同じ空間種でも力の源が違う。
したがって、君に同じ危険性があるとは思っていないよ、松永くん。
実際にどう危険なのか見せてもらうとしよう。
斎木くん、良いかね?」
良いか、も何も、教官に逆らう権利は俺たちにはないでしょうに。
三度注目を集めてしまって、俺は思わず漏らしそうになったため息を押し殺しながら頷くしかなかった。
元々そのつもりだったのか、その手元に用意されていたのを渡されたのは、壊れたモップの柄?
確かに太いし長いし見やすいだろうけど。
一体何が始まるのかとみんなで注目されれば見やすいようにしてやろうと思う俺は、何だかんだ言ってもサービス精神旺盛だ。
「この辺、注目しててください」
人差し指で指し示したのは自分の胸の前方の何もない空間。
棒を振っても危なくないくらいの空間があるからこそ出来ることで。
そこにピンポン玉サイズの丸い穴を開けて、一ミリずらして出口を作り、受け取った棒を振り下ろすために上段に振りかぶって。
その時だった。
背中に、ドン、と強い衝撃を受けた。
それが皮膚の薄い傷跡の上だったのと、長く重い棒を振り上げていてバランスが悪かったのと、そもそもの運動神経の無さとが相互作用したらしくて。
踏み止まれなかったんだ。
そのままよろけて前に踏み出し、前のめりに倒れて。
そこにあるものはもちろん自覚があって。
でも、壁にするもの分散させるのも間に合わなくて。
自分の肺の辺りに穴が開いたのは自分でわかったよ。けど、床に倒れた時の痛みの方がすごかったけど。
死にたくはないなぁ、って。そう思ったのが最後だった。
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