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 しばらくすると、鈴木、高橋、植村の順に友人たちが登校してきた。
 まだ始業には早い時間だから、俺たちを心配して早めに出てきてくれたのだろうとわかる。

「おはよう、お二人さん」

 そうやって砕けた挨拶をしてくれるのは、仲間として認められた証拠だろう。
 だから俺も二人一緒くたの表現に抗議もせず、おはようと返した。

 今日は体育のある日らしい。
 腰がダルイのに拷問かと思うんだけど。

 それ以前に、俺の鈍臭さがバレるなぁって感想の方が強い。
 しかも陸上競技なんだとさ。
 身体能力もろバレ種目だ。

「この学校で体育の授業って、けっこう重要だよな。何しろ通学っていう運動時間がないんだぞ。あっという間に太る」

 あぁ、なるほど。
 毎日片道三十分の自転車通学時間がなくなるのは確かに痛いな。

「まぁ、その分毎晩しっかり運動させるけどな」

「……バカ?」

 照れるとか、それ以前の問題だろ、それは。
 恋人でなかったら完全なセクハラだ。
 純情な植村が俺より照れて顔真っ赤になってるし。

 呆れた声で皇にツッコミを入れてやれば、皇はあからさまにガックリした反応を返してきた。
 だから、俺に初々しい反応とか求めるなってのに。

「ちょっとは喜ぶとか恥ずかしがるとかしようよ、稲荷」

「恥ずかしがるは良いとして、どこに喜ぶ要素があるんだよ。皇がベタ惚れしてくれてるのは知ってるから、もう少し自重してよね」

「こいつら相手に遠慮する必要を見出せない」

「じゃあ、世間様の前でうっかり口が滑らないための練習ってことで」

「……はい」

 負けてくれたんだか反論を思いつかなかったんだか。
 皇は俺に遠慮なくやり込められるのが何故だか嬉しいらしいので、ガックリしててもあまり気にしない。

 俺たちがじゃれあっているうちに気を取り直した植村が、肩を落としている皇は放っておいて俺に改めて問いかけてくる。

「それで、向こうで何かあった?」

 やっぱり今日の一番の話題はそれだよね。
 俺は一度肩をすくめてこっくり頷いた。

 それから、向こうの世界で昨日あった出来事を話して聞かせる。
 野川さんと仲良くなったこと、松永さんが同じ高校だったこと、起きたことの一部始終。
 さすがにみんな唖然としていた。
 昨日の昨日での早い展開にも、石灰を被った話にも。

「てか、稲荷はそうやって簡単に語るけどさ、実際これが稲荷じゃなかったら怪我じゃ済まない話だぞ。石灰なんて頭から被って無事でいられる保証はないんだ」

「元々俺が空間使いでなければ石灰の袋も破れなかっただろうから、どっちもどっちだよ」

 皇がツッコミのように補足するのに言い訳してみたけど。
 そもそも俺が空間使いだと何で石灰の紙袋が破れるのかっていう問題があるから、みんな皇に軍配を上げた。
 むぅ。なかなか事態を軽くできないぞ。
 あんまり大きな問題にしたくはないんだけど。

 さすがに朝の短い時間で空間使いが出来ることを説明している余裕はなく。

「てことは、何かあるなら今日だな」

「普段は俺たちと行動してればいいけど、問題は特カリだよな。今日なんだろ、斎木?」

「よりによって、俺と天野も今日なんだよな。しかも斎木と別グループ」

 逆に言えば、何かあるなら特カリ時間中かその前後。能力を使うには絶好の時間帯だ。
 大丈夫かと心配されるけれど、俺はむしろドンと来い状態だった。
 あの石灰被りで懲りないなら、完膚なきまでに叩きのめすだけだ。
 向こうの世界で松永さんという人の人となりは大体把握済み。知らない相手でない分、やりやすい。

「稲荷。あんまり無茶はするな。晒したくないんだろ?」

「……そだね」

 俺が密かにやる気になってたのに気づいたらしい。
 皇に咎められて肩をすくめた。変に気遣われるより分かってくれてる咎め方の方が嬉しくて、えへへと笑ってしまった。
 昨日はまだ戸惑っている風だった皇とわかりあっている態度をすることで話が通じているのは伝わったようで、三人の友人たちも肩の力を抜いたのがわかった。

「まぁ、特カリ部屋の行き帰りは天野に送迎してもらうのが良いさ」

「勝手に帰るなよ、稲荷」

 うーん。昨日意識合わせのつもりで曝け出したおかげなのか、皇に俺の行動パターンが把握されてるみたいだ。
 嬉しいような面倒くさいような、ちょっと複雑な気分だった。





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