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 皇の家もご両親は共働きで家には誰もいない。
 なので、部屋に入った途端に俺は遠慮なく皇に抱きついた。

「え? 稲荷?」

「話さなきゃいけないことと聞いておきたいことがいっぱいあるんだ。けど、それよりも欲求不満の方が深刻」

 向こうの世界ではもういいってくらい満たされてるけど、それとこれとは別だし。
 野川さんに惚気話を聞かされて煽られちゃってるのもある。
 それに、皇の匂いが夜の営みを連想させるんだよね。ぞくぞくしちゃう。

「うちの親……」

「だから、今のうちに早くっ」

 そりゃ、ベッドの周りに結界を張って音を遮断することは可能だけど、姿までは隠れられない。
 だから、親が留守なうちがわずかなチャンスだ。

 俺に強請られてざっと予測を立てたのだろう皇が、俺をベッドに押し倒してくれる。
 ってことは、OKってことで。

「昨日からどうしたんだ? 妙に積極的」

「鈴木がね、ツンデレなのかってさ」

「萌えるって?」

「ふふ。さすが鈴木の友達。よくわかってるじゃない」

 降ってくるキスに応えてその首に手をかける。
 制服のシャツを剥ぎながら指が裸の肌を滑っていくのがすごく気持ち良くて。
 指先と唇で胸の飾りを弄られるのも身体の奥がぞくぞくする快感。
 胸の上にある皇の頭を両手で抱え込むように抱き寄せる。

「……皇」

「ん?」

「これだけは、忘れないで欲しい」

「……え?」

「俺の肌に直接触れることができるのは、皇だけだよ」

 こんな時に言うべきではないのかも知れないけど。
 無条件で無防備になれる相手は皇だけで、他は例え能力を持たない一般市民であってもどこか警戒を解けない。
 それは、戦争のトラウマとこの能力最大の弱点に由来している。
 家族には接触恐怖症だと認識されているから、俺の意識がある時に素手では触られないでいられるけど、引き篭もりだったのもこれが原因の一端だ。

 つまり、俺が操れるのは空間だけなんだ。
 連続した物体はぶち切る以外に切り離すすべがない。
 だから、相手に掴まれちゃったりすると相手を傷つけずに自分が逃げるということが不可能だってこと。
 皇以外の全ての人間を警戒しちゃってる俺にとってはまさに最大の弱点だといえる。

 こんな時に言う台詞に、皇は目を瞬かせて俺を見つめた。
 それから何を思ったのかむっとした表情になる。

「こんな風に触る相手、俺以外に作るつもりだったの?」

「……皇。もっと素直に捕らえようよ」

 肌に触れるという意味を性的な意味で限定的に捉えられてしまったらしい。
 まぁ、こんな時にこんな所で言う俺も悪いのか。

「家族には接触恐怖症だと思われてるよ。
 実際、何もないとわかってても皇以外に触られるのはすごく恐い。
 布でも紙でも間に何かあれば大丈夫だし、手を握るとか髪みたいな神経の通ってないところを触るとかくらいなら平気だから困ってはないんだけど」

「俺は平気なのか?」

「うん。皇は、特別」

 それは、恐怖とはまた別次元の問題。
 きっと目の前で皇に銃を向けられても、俺は笑っていられると思う。
 生殺与奪を無条件に預ける相手だから。

 実はこれ、信頼ではない。それどころか、俺は皇が口にする言葉の半分も本気に捉えていないと思う。
 俺の認識の中ではその他大勢と同じ赤の他人の立場に彼はいる。
 だから、ちょっと秘密を持ってたりっていうかそもそも自分の計画を皇に一から説明することはまず考えたことがない。
 だからこそ、今日野川さんに皇には知らせてるのかって突っ込まれて初めてその必要性を認識したわけで。

 それでも俺自身の生命の権利を預けているのは、俺と彼の関係が主な理由だ。
 だって、全裸で寄り添って身体の中の奥深くまで触る権利を与えるんだよ。
 生半な覚悟では出来ないよ、そんなこと。

 そんな内心はおくびにも出さずに甘えて見せれば、皇はこれは何故だか素直に受け止めて幸せそうに笑った。

 自分だけ特別っていう立場はやっぱり嬉しいものらしく、皇はいつもより張り切って俺に挑みかかってくる。
 弱いところばっかり刺激されては俺だっていつまでも平静ではいられなくて。

「やぁ……んんっ」

「ん、可愛い声。でも、隣近所に聞かれるよ?」

「っ……って、あぁんっ」

「稲荷。声、抑えて」

「ムリ、言わな……んんっ」

 消音結界なんて張る余裕はない。
 どころか、能力を使う余裕がそもそもないから、いろいろダダ漏れ状態。
 能力を暴走させないので精一杯だ。

 そう思っていたら、察してくれたのかそういう欲求が起きたのか、キスで唇を塞がれた。
 ほぼ同時に一気に奥深くまで貫かれる。
 悲鳴になってしまう声が喉の奥で出口を求めて。

「ひぅんんっ!」

 堪えきれずに目の前の逞しい身体にしがみ付く。
 指先がトロリと滑った感じがするのは、もしかして背中を引っ掻いちゃったかも。

 一瞬だけ眉間に皺を寄せた皇は、けれど俺に抗議することもなくこの小柄な身体を抱きしめた。

「愛してるよ、稲荷」

「んっ……れ、もっ」

 それが空気に流されて口をついているだけで本気じゃないなんて、きっと皇は気づいていないんだろうね。
 一生気づかせるつもりもないけどね。





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