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その後、野川さんに頼んで救急車を呼びに職員室へ行ってもらい、俺は皇に協力してもらって三人を倉庫の外へ出すと、気管にこれ以上入らないように注意しながら再び石灰まみれにしてやって、残りの石灰を倉庫にぶちまけた。
石灰の上に足跡と人を引きずった跡をつけてアリバイ工作する。
つまり、彼らが勝手に石灰を被って倒れていて、俺たちは第一発見者だというシナリオを描いてみたわけだ。
本人たちが意識を保っていたなら即否定だろうけど、幸いというか不幸にもというか、彼らは気を失っているのだから文句の言いようもないだろう。
大慌てで現場にやってきた教師は、俺の作り話をあっさり信じた。
俺自身があまり石灰を被っていないことと作られた状況を見て疑う余地はなかったようだ。
三人を病院に搬送して、丁度居合わせたという理由で倉庫の片づけを手伝わされて、部活許可時間が終わる頃にようやく開放された。
能力を使えばあっという間の石灰の片付けも、箒と塵取りでかき集めるとすごい労力だ。
普段から能力に頼るばかりで動かない生活態度のツケが回ってきたとしか思えない。
まだ部活の格好のままだった皇が着替えてくるから待ってろと再三言いつけてクラブハウスに行ってしまうと、俺は手持ち無沙汰で体育館の壁に寄りかかった。
隣にはまだ付き合ってくれている野川さんがいる。
「……斎木くんってけっこう恐い子だね」
しみじみとそんな風に言われて、俺は野川さんを見つめ返してしまった。そうして、肩をすくめる。
「恐いですか? 言われたことないけど」
「うん。絶対に敵に回せないってしみじみ思った」
「野川さんが敵に回るなんてないと思うから、安心してください。俺、野川さんの人間性、けっこう好きですよ」
「それはありがとう。でも、俺は英輔のものだからね」
「俺も、皇のものです。受け同士仲良くしましょうね」
「斎木くんみたいな美人さんにそう言われると、何だか複雑……」
深いため息と共にそんな風に言われて、俺は遠慮なく笑った。
ちょっと前の殺伐とした空気が嘘のような、穏やかな時間だった。
ほのぼのとした空気が流れたのに少しの間和んでしまって、それから野川さんはまた真剣な表情をこちらに向けた。
「あんまり脈絡がなさ過ぎるから、向こうの世界では俺はあまり協力できないけど。
松永くんから表立って報復してくる可能性が高いと思うんだ。何か策考えてる?」
「ん〜。特に何も。臨機応変に、ですね」
「暢気だなぁ。
まぁ、君はそのくらいが丁度良いのかもね。これで、ばっちり準備万端ですよ、なんて余裕で笑われたらあまりに可愛げがない」
「可愛げなんてなくて良いですよ、男なんだし」
「受けに可愛げは必要でしょうよ、女役なんだから」
「男同士にそんなもの求めちゃいけません」
真面目な話は長続きせず、結局じゃれ合うように言葉を応酬して俺たちは顔を見合わせ笑いあった。
何にせよ、俺が受身の姿勢を崩さない限りこちらからは何も出来ることがないのだから、考えても仕方がないというものだ。
だったら気遣いのいらない者同士友好を深めておいた方がよほど有意義というものだ。
やがて皇が戻って来て、ついでに通用門を閉めるぞと当直の先生が声をかけてきた。
自転車なら駐輪場に近い通用門の方が便利で、追い立てられるように学校を出る。
「二人は家どこ?」
門を出たところで三人自然に立ち止まって、まず野川さんが尋ねてくる。
その問いに、俺は珍しく皇より先に口を開いた。
いつもは皇にお任せなんだけど、今日はちょっと事情がある。
「俺は本町の方なんですけど、今日は西町ですね」
「……俺んち?」
「うん。話がある」
今日のうちに話しておきたい、向こうの世界では周囲の耳目が気になって話せない話だ。
しっかり見つめ返せば、皇は少し驚いたようだったけど。
「ダメ?」
「いや、むしろ大歓迎」
うん。ただビックリしただけだろうとは思ってたから、思った通りだ。
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