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 しゅんと落ち込んだ俺に、野川さんは何故か楽しそうだけど。

「君は今まで、本当に独りで生きてきたんだね」

「……そんなことないですよ。家族や病院のスタッフの方々にはすごく助けられて生きてきてると思ってるし、感謝もしてます」

「あ〜、うん、俺が言うのはそういう意味じゃなくて。
 斎木くんはさ、人に頼るっていうことを身につけてないんだなって思ったんだよ。
 自分のことは自分で面倒を見るっていうのが徹底されてる感じ、かな。
 誰か人の手を借りるにしても、何をして欲しいのかが明確で具体的でしょう?
 何とかして欲しい、助けてくれ、っていう意味で人を頼ってない。
 違うかな?」

 言っている意味がよく理解できない。
 子供の頃から、数え切れないくらいいろんな人に助けられてきたから、せめて自分で出来ることくらい自分でしようと思ってるだけなのに。

「おかしい、ですか?」

「うぅん、そうじゃないよ。心がけはすごく偉いと思うんだ。
 特に斎木くんは頭が良いからね、人に頼る必要もなかったんでしょう。
 俺も正直なところ、人に頼る必要なんてないってずっと思ってたからよくわかる。
 たださ、その考え方って恋人に対してだけは逆効果なんだよね。
 俺も英輔と喧嘩するまで気づいてなかったんだけど」

「……逆効果?」

「そ。恋人ってのになるとさ、相手を家族よりも身近に置きたい心理が働くんだよ。
 家族にも知られたくない秘密を共有する相手っていうの?
 能力のことを知ってる相手だから、余計にね。
 恋人が問題を抱えてたりすれば、その相手が自分で解決できるようなことでも自分のことのように受け止めたいんだ。

 しかも、男って本能的に恋人を守りたいっていう欲求があるからなおのこと。
 相手の弱点を内緒にされてたり、自分の前にいてすら強がられたりすると寂しいんだ。
 でも、こっちも男だから、どうしても強がっちゃうじゃない。
 人に頼るなんて、むしろ恋人に甘えるなんて情けないって思う。
 これも男の本能だよねぇ。

 俺、英輔と付き合い始めてすぐの頃に思いっきり喧嘩しちゃってさ。
 そのおかげで、お互いに人間のオスが持つ本能を意識するようになったし、お互いに強みも弱点も曝け出すし、秘密にされても怒らないっていう約束事ができたよ」

 そこまで恋人との仲を惚気きって、野川さんは急に恥ずかしそうに笑った。

「俺も元々は天野くんタイプでさ。
 男らしい性格っていえば聞こえも良いんだろうけど、意地っ張りでね。
 面倒見は良いけど人には頼らない、活発で愛想も良いけど内面を曝け出したりしない、人に涙を見せるなんてとんでもない、恋人は守りたいと思う。そういうタイプ。

 天野くんと違ったのは、相手が大人の男でもうとっくに酸いも甘いも噛み分けた経験値の高い人だったってのと、俺の方が愛される側だったってことなんだ。
 だからこそ、早い内に衝突したし、腹を割って話し合うことができた。

 天野くんのほうはさ、きっと君が導いてあげるべきだし、君の方から思うことを口にしていかないと彼は気づかないと思うよ。
 天野くんから見れば、女性相手と立場変わらないからね」

 男の本能、か。考えてみたこともなかった。

「尽くしたい欲とかも本能ですかね?」

「それは性格でしょ。へぇ、斎木くんって尽くすタイプなんだ」

 ふぅんとか言いながら、野川さんは人の悪いニヤニヤ顔。
 これはもしかして、からかう材料を自分で提供しちゃったのかな。

 とりあえず何やら妙な落ちがついたところで、野川さんは寄りかかっていた机から身体を起こし、肩掛けにしていたカバンをかけ直した。

「そろそろ体育館に行こうか。天野くんにヤキモチ焼かれちゃうね」

「野川さんがお相手なら光栄ですよ」

「なぁに言ってるの。俺だって男なんだから、少しは危機感持って」

「野川さんのことは信用してますよ? 清水さんとラブラブですもの」

 浮気なんかできないでしょ、と言外に含ませてやれば、野川さんはそりゃそうだというように肩をすくめた。





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