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 で、実は隠している力の方が攻撃力になる力なんだ。
 使いこなすって面では開発途中だけど、小さなカマイタチ程度ならある程度の精度は出る。
 空間を切り取る力の方は性質上手加減不可能だけど、風の力の方は手加減も自由自在。
 相手を殺すのはさすがに抵抗があるから、攻撃力として使うならこっちだ。

「俺の力って、特カリの担当教官には見せてあるけど、意外に危険な力なんだよ。
 何たって物質無関係に空間を切り取っちゃうんだからね?
 俺なら俺だけは絶対敵に回さない。五体満足でいたいもの」

「五体満足って……何がどう危険なんだ?」

 皇にもこの力の原理とかはまだ話してないし、そもそも増強タイプの人は異能力持ちが自分の力を使うのに常に応用技を使ってるんだなんて意識もしてないだろうから、皇の不思議そうな顔も仕方がない。
 だから、実演して見せるわけだ。危険だと主張するなら、そもそもどう危険なのかを説明するのは義務のようなものだろう。

 自分の胸ポケットから付箋紙を一枚とって、皇に空間の一点を示す。

「ここに注目してて。絶対に触っちゃ駄目だよ?」

 開けた穴は針の穴くらいの小さいもの。
 紙を切るならこれで十分だ。
 この穴を横切るように付箋紙を滑らせる。
 空中のある一点で紙が三つに分解されるという現象は、理由がわかっていれば当然のことと受け止められるだろうが、いきなり見せられたら気持ち悪い部類だろうと思うよ。

 まるでミシン糸のような細さに切られて机に落ちた紙片を摘み上げて、皇はあっけに取られた表情を見せた。

「……何が起こったんだ?」

「入り口と出口をちょっとだけずらしてこの紙を入り口側から通しただけ」

 つまりね、と説明しつつ、図解してみせる。
 連続した物体である付箋紙を丸く切り取った空間に横切るように潜らせる。
 すると、切り取っていない空間はそのまま線形移動し、切り取った内側だけが出口側へジャンプする。
 境界の厚さはゼロに等しい。
 となれば、ほとんど無抵抗に物体が分断されるのは当然のことだ。

「ここに目に見えないくらいの薄い剃刀があると思えば間違いないよ」

「……そんな危ないもん、潜ったのか? 俺」

 潜った?
 あぁ、向こうの世界の一昨日のことだ。

「あれは平気だよ。
 出口がないと壁になるって話はしたでしょ?
 壁を下地にして一回り小さいゲートを貼り付ければ、境界が壁になったゲートができる。
 と、物質は壁にぶつかってくれるから切れることなく押し戻されるわけだ」

 すなわち、安全性の確保は俺の胸三寸というわけだよ。
 応用技が必要なんだもの、俺がその気にならなきゃ周りにはどうしようもない。

「怖い力だな」

「うん、そうだね」

 基本的に常人が異能力を持つ人間を敵に回して敵うわけがないけれど、俺はその中でもトップクラスの危険度だと認識している。
 戦争に使えば無差別大量殺人鬼に早変わりだ。

「これでも能力の一部にすぎないよ。
 俺はつまり、空間使いなんだ。切ったり繋げたり縮めたり広げたり。三次元に収まることならできないことはまずない。
 ただし、ここって決めたらそこからは動けないっていう制約だけはあるけど。ってか、動かすのはすごく難しいんだよ」

「……ごめん。さっぱり理解できない」

「ん〜。パソコンで使うグラフィックツールってあるじゃない?」

「うん。
 ……は?
 まさかあの機能を現実世界に再現しようって?」

「全部が全部できるわけじゃないけど、そんなもんかな」

 たとえば、一枚の風景写真がある。
 これをパソコンに取り込んでグラフィックツールを使って加工する。
 制約はあって、切り抜いたり図形を足したりすることは出来ない。
 けどまぁ、簡単な加工機能ならたいてい使えると思えば良い。

 縮小したり拡大したり切り取って移動したり。
 影響が及ぶのは空間だけで、物質はこれに引っ張られて動く。
 質量保存の法則というものが物質世界にはあるから、縮小すれば縮小されたものを周りが補おうとしていろいろ引っ張ることが出来るし、拡大すれば押し出されて突き放すことも出来る。
 一番動かしやすいのは気体で、だから風使いとなるわけだ。

「異能力ってのは結局さ、人間が持てる未知の可能性を一部開拓した、身を守る術なんだよね。
 だから、何かに干渉できるようになったっていう『何か』をそれぞれが一つだけ説明できて、それを使う人っていうのは自分が何に対して干渉できるようになったのかを理解して行使する。
 俺は空間。野川さんは無機物。皇は自分の運動神経で、鈴木は自分の視力、高橋は筋力、植村は思考神経か脳パルスってとこ」

「……松永さんは?」

「物質なんじゃないかな、と思うよ。もしくは分子とか原子とか。
 物体を分子レベルに解体して希望する所に持っていって再構築。
 時間かなとも思ってたんだけど、もし時間を操ってるんだとしたら密閉した箱から物を取り出すなんてことは何時間たっても出来ないだろうから違うなって。
 分子まで分解してしまえば、見た目は密閉ったって抜ける隙間はあるだろうからね」

 だからこそ、距離の制約があるのだろう。
 解体した分子を一つ残らず移動させるなんて、距離が離れれば離れるだけ難しい。

 きっと大きさにも制約があるんだろうな。
 本人に聞いたわけではないからどのくらいかはわからないけど。

「その説明でいくと、松永さんもだいぶ怖い能力を持ってるってことだな?」

「そうだね。隙間に異物を混ぜるとかくらいならわけもないでしょうね」

 それに、分解したものをバラバラに分散させてしまえば元に戻すことも出来ないだろう。
 原理が正確にわかっているわけではないので想像の域を出ないが、結局は何事も使い方次第だというわけだ。

「じゃあ、稲荷だって危ないじゃないか」

「それは平気だよ。物質世界に終始してる相手なら俺の敵じゃない。
 まぁ、任せといて」

「そう言われてもね……」

 結局心配なのには変わりないようだ。
 俺の力より優位に立てる相手なんて、同じ空間使いか時間使い、それかよっぽどの天才児くらいだろうにさ。





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