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 噂をすれば何とやらで、二階だからエレベーターを待つより早い内階段を上って廊下に出てきた皇の姿を発見。
 皇が自分の部屋のドアを開けようとしているから、その耳元に声を届ける。
 この部屋にいる人間にしてみれば、俺が突然独り言を喋ったように見えるだろうけれど、そこはすでに能力を知らせてあるから勝手に予想してくれるだろうと判断して気にしない。

「おかえり、皇。こっちの部屋の鍵、開いてるよ。みんな来てる」

 みんな、という指示語に該当するメンバーに思い至りはしたのだろうけれど、意外でもあってびっくりした表情だ。

 呼び鈴も鳴らさずに俺の部屋に入って来た皇は、挨拶もなく友人たちに不思議そうな声をかけた。

「何でみんな揃ってるんだ?」

 また明日と挨拶してそれぞれの部屋に引き揚げたはずだったからこそ、その疑問も無理はない、部屋の雰囲気が深刻だったから場違いな感じも否めないが、それも仕方がないと思う。

 気を取り直して事の次第を説明してくれたのは植村で、俺は皇のお茶を用意するために席を立った。

 俺がこの学校に来た理由については、俺にバレたとわかってすぐに皇は本当に申し訳なさそうに謝ってくれたから、俺にこだわる理由もない。
 それよりも、松永という先輩が俺を狙っている件の方が問題だ。

「松永さんなら寮長会議に来てたぞ。確かに十分くらい遅刻したけど。
 寮生活の調和を乱すのはよろしくないからって稲荷を守るためにもしばらく監視したらどうかなんて提案してたな。
 プライバシーの侵害になるってしっかり反対しといた」

「とすると、松永さんが表立って行動してくることはなさそうだよな。
 何企んでるんだろう」

 うーん、と四人が真剣に悩んでくれて大変嬉しいのだけれど。
 正直なところ、俺自身はどうでもいいとか思っていたりする。

 だって結局のところ向こうが仕掛けてきてくれないと動きようがないのだし、臨機応変で十分対応できる自信もある。
 彼らだってその場に居合わせていれば助けてくれるだろう。
 それだけわかっていれば十分だ。

「起きてもいないことを今悩んでも仕方ないよ」

 言いながら、皇にお茶を入れたタンブラーを手渡して、空いているベッドの端に腰を下した。
 途端に四人の視線が集中する。
 全員が驚いているから、俺の発言はそれだけ問題発言だったのだろうとはわかる。
 けど、考えを改める気は俺にはさらさらない。

「稲荷。自分のことだろ?」

「自分のことだからこそ、だよ。何か起きた時に対処するので、俺は十分だと思ってる」

「対処ったってなぁ。しきれるか?」

「大丈夫だって。いざとなったら空間渡って逃げるし」

 あまりバラしたくはないけれど、攻撃力だってそこそこある能力だ。
 最悪でも一矢報いることはできる。
 と信じてるって話なのが微妙に不安要素ではあるけれど。
 隠して生きてきた分、実戦経験皆無だしね。
 逆に言えば、懸念材料なんてそのくらいだ。

「あんまり心配しないで。植村にお守りももらったし。ね?」

 チリンと小さな鈴の音も可愛らしいイルカのストラップ。
 部屋の鍵に結び付けて肌身離さない準備も万端だ。

「それより、荷物運び手伝ってくれない?
 購買部もあちこち回って必要なもの揃えなくちゃいけないし」

 ほとんど空っぽのこの部屋を見ればその切実さは容易く理解できるはずで。
 四人それぞれに顔を見合わせて、四人それぞれに肩をすくめた。
 立ち上がるために腰を上げてくれる。

「何を買うんだ?」

「ん〜。
 フライパンと鍋を小さめの一つ、お皿を大小取り混ぜて四枚と箸とカトラリー類、包丁、お椀、お茶碗、調味料を一通り。
 制服ができてるはずだから取りに行って、あと洗剤類も買い忘れてたんだよね。
 ハンガーと洗濯ばさみも欲しい」

「……全部、今日?」

「明日は特カリ入ってるから、今日明日明後日でいるものは揃えときたいんだよ」

 多いかな?
 でも、自炊しようと思ってるし、初めての一人暮らしならこのくらい必要だと思う。

「一人暮らし始めてすぐに必要なものがすらすら出てくるって、すげぇなぁ」

「俺も洗剤が切れてたんだ。一緒に行くよ」

「じゃあ、荷物持ちに同行しよう」

 どうやらみんな一緒に来てくれるらしい。
 これは、夕飯ご馳走しなきゃかな。手に入る食材にもよるけど。

 五人分のタンブラーを冷蔵庫上に避けて財布を漁っているうちにみんな玄関前に出ていて、皇に呼ばれてしまった。
 ってか、男って行動早っ。
 自分も男であることを一瞬忘れた感想に自分で笑って。

 こんな友人たちを得たことに、改めて感謝だと思った。





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