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 いや、でも、と話を戻したのは植村だった。
 
「さすがにこの学校でも瞬間移動ができるのは松永さんくらいだから、あの人取り巻き多いしさ、気をつけなよ、斎木」

「斎木がここに来るきっかけを作るのに手伝っちゃった分、責任感じるんだよな」

「出来る限り守ってやるから、俺らも頼ってくれよな」

 心配してくれているのがわかる彼らの言葉に俺は感謝をこめて深く頷いたけれど。

 それからふと、首を傾げてしまった。
 何か今の言葉に聞き捨てならない一言が含まれていたような。

「高橋、今何て?」

 植村、高橋、鈴木の順に声をかけられたから、真ん中の台詞は高橋のものだ。
 俺がここに来るきっかけ?
 
「あぁ。天野に口止めされてたけどな。斎木相手なら黙ってる方が悪いと思ったんだ。
 友達に秘密を作るって苦手なんだよ、俺」

 皇が口止めするって事は、俺にとって都合の悪いことだとは簡単に判断が付く。
 ということは、聞き間違いではないらしい。

「俺がここにいるのは、郵便局の配達員に移動の瞬間を見られたからじゃなかった?」

「あぁ。表向きは」

 あっさり頷いて詳しく説明してくれたのは、直接その能力を使って手を下した植村だった。

 確かに、何か変だとは思ってたんだ。
 見られてしまったのは玄関の外から空間移動した俺が悪いとしても、けれどさすがに普段から周囲に警戒する癖が付いているから周囲に人影がないことはチェックしてあったし、そもそもうちのあたりの郵便配達は午前十一時から十二時の間になっていることは長い引きこもり生活のおかげで把握している。
 つまり、郵便局の配達員にその瞬間を目撃される可能性というのは万に一つくらいなんだ。

 それこそ、万が一の可能性に引っかかってしまった運の悪さを嘆いていたのだけれど。

 それも、誰かの陰謀が絡んでくると話は変わる。
 確信を持って観察されていれば、いくらでもボロは見つかるだろう。

 話を聞いてみると、俺が見つかってしまった原因の大本は植村の能力だというのは紛れもなかった。
 接触テレパスの植村がターゲットに選んだのは、今の特別カリキュラム指導教官である長沢一尉だった。
 テレパシーによって脳内の自己認識にすり込みを与えると共に、催眠術にかけた。

 電話での垂れ込みを受け取ったと認識した長沢一尉の報告を元に、能力者疑惑のある少年を監視することがすぐに決定。
 自宅の玄関やリビング、自室、通学路途中などに監視カメラを設置し、俺がボロを出すのを待っていた。
 つまり、郵便局員なんてそこにはいなくて、カメラが捕らえた決定的瞬間が決め手だったということだ。

 皇が俺を呼んだんだという件には、結果的には皇のお隣さんでラブラブ生活できる土壌を得たわけだから、感謝とはさすがにいわないけれど怒るつもりもない。
 けれど、監視カメラって点はいただけないよね。完全な騙まし討ちだ。

 なので、俺は素直にむっと唇をひん曲げて不機嫌を見せてみた。

「許せない、か?」

「だって、騙まし討ちでしょ。許す理由がどこにあるの」

 しょんぼりと肩を落としたのが三人揃っていたことに、俺は内心ほっとした。
 四人の連帯責任を彼らはちゃんと感じている。
 皇の気持ちも友人である彼らの気持ちもわかるから、こちらについてはこれで十分だ。

 といっても、軍のやり方については理解したくないけどね。

 俺の不機嫌な態度を誤解したままの三人は口々に皇を庇う言葉で俺に訴えてきた。
 それだけ、友人思いの良い連中で嬉しいと思うんだ。

「この事であいつを振らないでやってくれよ」

「人に対して執着ってやつを持たない天野が唯一自分から欲しがった人なんだよ、斎木は」

「せっかく心を開いてくれた天野を元に戻さないでやって」

 口々に言われるそれは、人気者の天野皇とはかけ離れた人物評で。
 普通に上っ面だけで付き合っていたなら、その台詞を信じることは出来なかっただろう。
 けれど、俺にとってその意外な人物評も想像の範疇だった。

 そもそも、面倒見の良い人ってのは、実は表面だけ取り繕っているか過去に何かを吹っ切っている場合が多い。
 時には無償の精神を持ち合わせて生まれてくる人もいるけれど、まぁその大部分は過去に自分が似た経験をしている。
 子供の頃は人見知りが激しかったとか、苛められたことがあるとか、理由は様々だろうけど。

 皇の面倒見の良さも多分後天性。
 根っからの性分というよりは吹っ切れた感じなんだ。
 その辺の細かい機微は、きっとそれも経験者じゃないとわからないんだろうとは思う。

 ちなみにこの三人でいうと、鈴木は根っからのお節介で、高橋と植村は吹っ切れたタイプの方。
 同類は他者の理解度や未来予想が細かいから意外とわかりやすい。

 いずれにせよ似た感覚を持った友人というのはありがたい存在で、あんまり意地悪するのも申し訳ないので俺はポーカーフェイスをさっさとやめて笑った。

「皇は良い友達を持ったね」

「……え?」

「怒ってないよ、皇のこともみんなのことも。
 軍のやり方は許せないけど、皇のやることに反対するつもりはまったくないし、みんなは皇のことを思ってくれただけなんだってわかってるから」

「でも、騙したのは俺らだし……」

「それを、今ちゃんと教えてくれたじゃない? それで十分。
 皇のこと、これからもよろしくね」

 って、何か夫を同僚に託す奥さんみたいな台詞になっちゃった。
 俺自身の気持ちとしてはそれそのものではあるけれど。





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