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俺の雰囲気で工業大っていう組み合わせが意外だったようで、俺が目標としていた職業を知らない三人には思いっきり驚かれた。
「東工大? 工業? 文系っぽいのに」
いや、見た目で文系も理系もわからないと思うんだけど。
実際座学なら何でも得意っちゃ得意だから、文系学部だって行こうと思えば行けるだろうけどね。
建築学部は思いっきり工業の分野だ。
「一級建築士を目指してる……たんだよ」
現在進行形で言いかけて、過去形に繋げる。
もう一方の世界では変わらず目指すつもりだから夢を諦めてはいないけれど、この世界ではその道を閉ざされてしまったわけで、こちらの立場で言うなら過去形でなければおかしいのだ。
わざわざ言い換えたことには深く突っ込まないでくれて、みんなへぇと感心した声を上げた。
三者三様、とは今回はいかなかったようだ。
「将来設計がしっかりできてたんだな」
「こっちの進路に来たら全部パアだろうなぁ。もったいない」
「一級建築士って事は、橋とかビルとか造るつもりだったんだろ?」
「ん〜。それもあるけど。
商業複合施設とか、プロデュースしたかったんだよ。
私鉄駅から周辺住宅まで全部一環計画って感じで」
「お。シムシティじゃん」
いやいやちょっとお兄さん。
この閉鎖空間でそのゲームを知ってるというのは問題なのではないでしょうか。
どうやら見た目通りのゲーマーだったらしい鈴木にそんな反応をされて、俺は思わず笑ってしまった。
いいところを指摘されているようだけれど、あれは結局市長体験となるわけで、誘致と維持がゲームの目的だ。
俺の希望は誘致される側。
都市計画を企画提案して箱物を作って住民を誘致して、顧客に引き渡す。
都市の景観と使い易さに配慮して住民に気に入ってもらって終の棲家にしてもらって、あわよくば世代交代までしてもらえれば、誘致した街も住民もテナント料を収入にできる会社も喜ぶというわけだ。
我ながら壮大な夢だと思うけどね。
「そんなしっかりした夢を蹴ってまでここに来たんだ。チクッた奴を恨んでるんじゃないか?」
高橋がそう気遣いを見せて、植村は何故か申し訳無さそう。
けれど、俺は首を振った。
「仕方ないよ。自分がドジったのが悪いんだし」
実際、感謝してもいる。
まだ仲の良い様子を見せることはできないけれど、皇と一緒に学校生活が送れて、部屋はお隣だし、一人暮らしだから家族の目を気にする必要もなく力が使える。
同じように異能力を使う友人もできて、しかもその力をひた隠しにして他人の視線に怯えるというストレスからも解放された。
能力の全てをオープンにするわけではないので人の目はこれからの気にしなければいけないけれど、能力の性質上、傍で見ていてもわかりにくいものだから仮に制限以上を見られてしまっても誤魔化しが効きそうだという安心感がある。
「でも、他人にバレなきゃ進学校で能力に合った勉強ができてたわけだろう?」
「うん。
でも、そのかわり常に怯えてたし、他人の目を気にしてビクビクしてたから友達もできにくかったし。
ストレスから開放されて気が楽っていう面も確かにあるんだよ」
だから、悪いことばかりではないのだから。
そんなに気を遣わないで、という気持ちをこめてニコリと笑って見せた。
気持ちを汲んでくれたらしい。
鈴木も高橋も植村もほっとした表情だった。
一番緊張してて一番脱力したのが皇だったのは少し不思議だけど。
「けどさ。よくもまあ十年も隠れてたよな。ある意味すげぇ」
きっと教室内で耳をそばだてている人たち共通の感想なのだろうけど。
鈴木のその言葉に1時限目の開始ベルが鳴ってかぶった。
残念そうな空気が広がる中、俺は一言でそれに答える。
「能力の性質上、使わなきゃバレないから」
その力を得たのは、みんな同じ年齢だから小学校の一年生から二年生の時。
自分が手に入れたカッコいい不思議な力をまったく使わないで隠れ住むなんて思いもしない、好奇心旺盛な年齢だ。
だからこそ、みんな結構早いうちにここに収容されている。
一方の俺は、入院が長かったのとほとんど外出できなかったのと、そもそも能力を使いこなすのが難しいのとで、人の目に付く機会が極端に少なかったんだ。
使いこなせるようになった時には、この能力を他人に知られた時の不都合を理解している年頃だった。
まぁつまり、いろいろな偶然が重なった結果というわけだ。
俺のそんな言葉にクラス中からツッコミが入る前に一時限目の担当教諭がやってきて、話は有耶無耶のうちに中断を余儀なくされた。
そのまま永遠に中断しててくれると俺は嬉しい。
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